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死から生まれた獣

2作目の作品ですが、こちらは残酷な描写が際立つため苦手な方も多いと思います。(-_-;)


苦手な方はお構いなくバックしてくださいm(__)m

ーーー私は死んだーーー


私の脳裏に浮かんできたのはそれだけだ。私は確かに死んだ。そのはずだったのに、死んだにしては生前とそんなに変わらない気がする…。


ーーー私は誰だーーー


その次に脳裏に浮かんできたのは私自身が何者かすら覚えてないと言うことだった…何か覚えていたが何も思い出せなかった…。


ーーー何か欲しいーーー


訳が分からなかったが、酷い虚無感に襲われる。何かが足りない、何かを強く欲してたまらない…しかし何が欲しいのか分からなかった…。


「……。」


何が欲しいのか分からず、虚無感の果てにフラフラとした足取りで歩き始める。闇夜を照らす灯りの中で人々の賑やかな声や様子が聞こえてくる。


嗅いだだけで腹が減りそうな飯の匂いや酔いそうな酒の匂い、見ただけで目が眩みそうな煌びやかな宝石類や欲情を掻き立てられるような男女。しかしどれもこれも欲しているものではない…。


「はあ、そんなことも出来ない訳?あんたは?本当に能無しね。」


「…!」


ところがとある女性の高圧的な台詞と声に、突き動かされるようにその声の主を見つめる。そこには他にも人間は大勢いたが、その声の主の女性だけをクローズアップするかのように見つけていた。


「そ…そんなこと言われましても…。」


「触んな!あんたみたいな汚い奴が触ろうとすんな!ただでさえあんたと同じ空気を吸うだけでも辛いのを我慢してんのにさ!」


その女性は気弱そうな男性に対してこれでもかと暴言を吐き、私は聞くに堪えないはずなのに一言一句全てを聞き胸の内の強い衝動を感じていた。


「仕事も分かってないくせに人に尻拭いばっかさせてさ!そんなんで触ろうだなんて何様のつもりよあんたは!本当に良い身分だよな!あんた会社辞めたら?」


「ううっ…!?」


「泣けば何でも許されると思うんじゃないよ!本当に良い身分よね!」


遂にその男性は泣き出しそのまま立ち去り、女性もヅカヅカと去っていく。しかし私は去っていく女性の後をゆったりとした足取りで追っていく。


「はあ…マジ疲れた…。」


女は高級マンションの中へと入っていく。何故か分からないが、虚無感とは正反対の強い衝動が腹の辺りからフツフツと湧き上がる。


「本当、あいつにはイライラさせられる…迷惑でしかないわ。」


そして女は住んでいる部屋の中へと入っていくのを見届ける。しかし私の足は歩みを止めない。閉ざされているのに私の足はその女の後を追うように進んでいた。


「!?誰よあんたは…。」


玄関から廊下、廊下から部屋へと入って女を見据えると、彼女はそこで私のことに気が付いた。


「どっから入ったのよ!警察呼ぶからね!」


「!」


「あつっ!?」


警察を呼ぼうとスマホを手に取った女を見た私は、咄嗟に届く訳でもないのに手を伸ばした。途端に小さな爆発を起こして女のスマホが壊された。


「な…何よあんたは…誰なのよ!?」


どうやら彼女は私のことを知らないようだ…しかしそれを聞くと先程のフツフツとした衝動がより強くなり自然と体温が火のように熱くなる。


「いやっ!?むっ…!?」


私はその女の口を抑えつけ、押し倒して馬乗りになる。女も暴れて殴ったり蹴ったりしているが、不思議と痛いと言う感覚がしない。


「ぐっ!?むっ!?」


気が付くと私はその女の顔を力任せに何度も何度も何度も何度でも拳を振り下ろし、鈍い音を立てながら殴りつけていた。


女は痛みを訴えていたが、不思議と私は高揚感に包まれていた。まるで空腹を満たす最高のご馳走にありついたかのように。


『あんたはさぁ、人として恥ずかしくない訳?』


「…!?」


そんな高揚感の中で私の脳裏に1人の女性が浮かび上がる。見た目は少し異なるが、声や口調は瓜二つでそれを思い出す度に再び虚無感のような物を味わう。


『あんたは人より仕事が遅い上に尻拭いさせておいて何その態度は?人として恥ずかしくない訳?』


「…!」


「ちょ…止め…!?」


浮かび上がる度にその記憶をぶち壊すかのように自然と私の拳に力が込められ、元凶であるこの女をこれでもかと殴り続ける。


『ちょっと、あんた。そこ綺麗にしておいて。』


「…!」


そして記憶を思い出す中で一番印象に残っていた記憶があった。


『あんたねぇ、あんたは人として恥ずかしい上に汚いんだからさぁ。こうやって綺麗にしておかないとマジキモいんだけど?そんなのも分かんないの?』


それは私が使った物やそれまでいた所をタオルや除菌シートなどで拭いたり、消毒液で徹底的に消毒するかして、私を汚い物扱いする忌々しい記憶だった。


「……。」


すると私はあることを思いつき、一度殴るのを止めてある物を取りに行く。


「こんのぉ!?死ねぇ!!」


戻って来たらあの女が先程のお返しと言わんばかりに電気スタンドで殴りつけてくる。だが、不思議とこれも痛くない。寧ろ痛いのは…。


「がっ!?」


「…!」


痛いのはそんな忌々しい記憶によって苛まされることだった。その痛みのほうがこんな女が受けている痛みなんざ屁でもなかった。


「あっ…!?がっ…!?」


再び押し倒したその女性を再び何度か殴りつけた私は口を開けさせ持ってきた物を手に取る。


「ごぼっ!?がぼっ!?」


手に取っていたのは洗濯用の洗剤や漂白剤だった。私は無理やり開けた女の口にそれらを流し込む。当然、女は吐き出そうとむせていた。


「がほっ!?ごぶっ!?」


だがそんなのは許さない。私は無理やり口を開かせて洗剤を流し込む。そして注ぎ口をがっぽりと口に押し込んで吐き出せないようにしっかりと抑え込む。


女はもはや何も叫ぶことも洗剤を吐き出すことも出来なくなりそれでも必死に暴れ続けていた。それでも私は洗剤を注ぐのを止めない。


ーーー人を汚い物扱いした人間の方がよっぽど心が汚い。だからこいつと同じようにしてやった…汚い物を排除するようにな…。ーーー


今の私を突き動かしたのはそれだけだった。やがて女は暫く痙攣し白目を剥いて動かなくなる。


「……。」


高揚感はこれまでにないくらいで、正直死んでしまうほどの快感だった。しかしこれだけでは終われない…何故なら汚い物を排除するなら徹底的にやるべきだ。この女がしたように…。


「……。」


今私は動かなくなった女をズルズルと引きずっていた。途中で階段に女の頭を何度もぶつけていたが気にしない。何故なら私はこの女ではない。


虚無感はなくなったため引きずるのは苦ではない。そして引きずる中で私は色々と思い出していた。


ーーー私はこの女に虐げられていた。しかしその復讐は果たされた。ーーー


その真実は私を心の底から微笑ませ幸福にしていた。しかしそんな私が何をしているのかと言うと…私は女を引きずって屋上へと来ていた。


「うわあっ!?何だ!?」


「お…女だ!?女が飛び降り自殺したぞ!?」


下では先程落とした女が血溜まりの中に醜い有様で沈んでいた。そう、やるなら徹底的にだ…そして色々と思い出し虚無感の正体が何となくだが分かってきた。


ーーー様々な人から虐げられた…絶望して死んだのだーーー


私が死んだ理由…それは生きている間に様々な人から虐げられ、裏切られての果てに自ら命を絶った。


しかし神様にも嫌われたのか、私は無情にも生き返った…いや、どうやら私自身は何か人間ではない者に生まれ変わりそれまでの記憶を無くしたようだ。


あまりにも惨めな人生だった…それだけで終わればまだ良かったのだろうか。いいや、違う。それならばこの衝動も虚無感も存在しないことになる。


『自分にも非があるかもしれないのに逆恨みではないか?』それならばそれを良いことに私を虐げた人間にも非があるのではないか?


『自分が悪いのだから反論するなんてふざけてる?』一方的に言われても耐え続けたのにそれを揚げ足にこちらの意見を一蹴するのは正しいのか?


ーーー私だって世の中に迷惑をかけている存在だから死にたいーーー


そんな死のうと言う気持ちと絶望の果てに自ら命を絶ったのに、神にも嫌われ人ならざる者にさせられると言う天罰を与えた。


そこまで嫌うと言うのなら、人ならざる者として生き続けろと言うならば…


「もはやこの身が滅ぶまで…私は復讐を果たし続ける!絶望しか与えなかったお前達への逆襲だ!!」


人ならざる者ならば人としての振る舞いも吟醸も捨て、復讐の怪物となりて自ら天罰を与え下す!


恨むのなら復讐心を植え付け、人ならざる者にした自分達を恨め!


私は自身の復讐心と言う飢えを満たす獣となり、この世に再び解き放たれたのだ!

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