前世の記憶、転生、そして宿命
ジリリリリ!!
耳元に大きな時計が早く起きろというような音でアラームが鳴り響いている。
大きな音を響かしている時計を止めようと毛布から少年の手が伸びアラームを切りそれと同時に大きいなあくびを出しながら彼は起きた。
少年は洗面台に行き顔を洗い、朝食を食べにダイニングルームへと向かった。
「おはよう、真。相変わらずギリギリまで寝ているな」
「ほら、ちゃんと朝ごはん食べて学校行きなさい」
ダイニングルームにはマグカップを片手に持って新聞を読んでいる父がいつものことに笑いを浮かべ、キッチンで洗い物をしている母は息子に朝食を食べるよう促した。
彼、日々谷真はいつものように学校は遅刻寸前のギリギリまで寝ている寝坊助である。
「じゃ、行ってきます」
朝食も終わり支度を済ませた真は学校に行くためのバス停へ走っていった。
真は高校二年生であり学校はバスで登校するのだ。道中に広々とした道路を横に目的地であるバス停へ向かうのだが道が長い信号機を渡らなければ止まってしまうとかなりの時間をそこで過ごさなければならないので急いで渡るため走る速さを上げた。
(はあ、はあ、これなら渡れそ……う……あれって……ちょっとまずいんじゃないか?)
真は渡り切れると思い安堵した瞬間、どこからか大きなエンジン音がこちらへ近づいていることがわかった。彼は音のする方を向くとそこにはトラックがとんでもない速さでこちらに走ってきた。とっさの事態に周りの人たちは早く避難しないとと必死になり押し合いが始まってしまった。
真は巻き込まれないよう、すぐさま来た道へ戻ろうとした瞬間、目の前にいた小さな女の子がつまづいてしまい地面に倒れこんでしまった。トラックはすぐそこまで迫っており危ない状況の中、すぐさまに真は倒れこんでしまった少女のところへ走り彼女を持ち上げた。しかし今から走り出しても間に合わない距離でありこのままでは二人とも轢かれてしまうと確信した真は最後の力を振り絞り彼女を安全なところへ投げ飛ばした。
次の瞬間、真はトラックに轢かれてしまい惨い音と共に空中へ飛ばされ地面へと叩きつけられてしまった。誰かが彼に声をかけているようだけどもその声はだんだん聞こえなくなってしまった。
◇
「すばらしい! あなたの行動にわたくし感動しました!」
今、目の前には涙を流しながら拍手をしている女性が真の目の前に浮いていた。
「えっと、あの、ここはどこですか?」
真は周りを見渡してみる。ここは真っ白な所であり水平線が見えるほどなにもない場所であった。
「そうですよね、こんな見知らぬ場所にいるのだから混乱してしまうのも無理はありません。では自己紹介から始めます。わたくしの名はウェブレリタ、世界を管理する神です」
涙をぬぐい丁寧にお辞儀をし右手を胸に持っていき自己紹介を始めた。見た目からして真とあまり年齢は離れていないようみ見えふわりとした服装できらきらと輝くオーラを放っていた。
真はもっと混乱してしまった。世界を管理する神様が自分になんの用なのか考えようにもこんな出来事が起きてしまい頭が回らないのである。そこで真は自分が覚えていることを口にしてみた。
「たしか、俺はトラックに轢かれて……」
自分はトラックに轢かれてしまいそのまま意識がなくなってしまったこと。となると自分は死後の世界へと行くのかと思っていると、ウェブレリタは興奮しながら話を始めた。
「あなたはあの出来事に一瞬のあの時間の中で小さな女の子を優先したその行動を称え前世の記憶を持ち第二の人生を送ることができますよ!」
勢いのある説明をしながら真へどんどんと近寄ってきた。なにか焦っているのか汗もかいているのがわかる。そんな真はなにか裏があるなと思い彼女が焦っている理由を問い詰めることにした。
「それでその神様がどうして僕にこのような話を始めたのですか? それに何か困っているように見えるのですが?」
「!? べべ別に! 焦ってないよ! ただ君が転生するにあたって少しお願い事があるってだけど面倒ことじゃないし! ほら! 欲しいスキルなどもあげちゃうし!」
真が理由を聞き出そうとしたら神様は焦っているという言葉をポロリと吐いてしまい、やはり自分が転生をすることは簡単じゃないことが分かった。そんなに焦る理由は何なのか考えてみたがあまり理由が見当たらない。
「実はね……本来の転生はもうそのまま転生先で生まれた時から記憶を持つのだけど、君みたいな人たちは必要な存在になるための抽選があって……その……君はその抽選に当たっちゃった☆」
なるほど、わからん。心の中でそう思いながらそんな軽ノリで応えられても困ってしまう。
「必要な存在とはね、例えば! 勇者のような役目を持った人が転生するにあたってその役割と運命を共に過ごさなければならないってことだね」
「つまり、僕はその決められた運命を持って転生するってことですね」
ウェブレリタは真の飲み込みが早くて助かったのかほっと息を吐いたのが分かった。そして神様は彼にどのような存在になるのか、説明を始めた。
「それで君の転生先の役割は”獣神王”だよ。獣神王の役割は獣人の柱になってもらうの」
真は初めて聞くワードでは違和感が生じてしまうが、
「その役割はそんなめんどくさそうなものではないと思うので僕は大丈夫ですが……」
「いやね、これには理由があってね。この世界の獣人の国は少々厄介でね。それは……」
神様は獣人の国の歴史を語り始めて長いので省略することにした。要は、獣人の国は王様のせいで徐々に悪い方へと進行していてこのままでは滅んでしまうので神のお墨付きである獣人を玉座に座らせることによって国を安定させるということである。
「で、君は王様にこのことに気づかれると殺されてちゃうから君の場合は前世の記憶と今の会話の記憶、そしてあなたのスキルを隠す――というより最初っから無の状態にするからあとはこの国の制度を利用して生贄という存在となるから森に連れてこられたところでわたくしが作った動物に回収させますので安心してください☆ ちなみに記憶を覚醒させすればスキルなどは元通りです☆」
神様は重要そうなことを言っているみたいなのだが、ちょっと言い方に問題があるのか緊張感がなく逆になんの動物が自分を回収するのか気になってしまった。
「と、いうことで転生するにあたりあなたが欲しい力を4つプレゼントします!」
ウェブレリタは手をポンっと叩き真の目の前に浮遊している透明なボードを出した。これはステータスなのだろうか、そこには自分の情報が記載されていた。
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名:日比谷真(仮) 歳:17歳(仮) 性別:男(仮) 種族:人間(仮)
魔法特性:空欄
魔力:空欄
スキル:選択中
耐性:なし
加護:神の加護《獣神王》
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「思っていたものと何か違う気がする……それに仮ってなんだ?」
「そおかな? やっぱあなたたちの世界の思っているものとは違うみたいだね。でも体力や筋力とかは正味書かれていてもあんまり意味がないと思っているからこれだけで十分かなって。あと仮は転生すると項目は変わっちゃうから今はこれで補っているだけだよ☆」
神様はウィンクをかましぷかぷかと浮きながら真の周りを回り始めた。いろいろと抜けているところがあるというか何か欠けているところがあるというか、でもこのような性格の神様も悪くないと思ってしまった。
一番上の左から順番に名前、年齢、性別、レベル、種族であり、魔法特性は使う魔法の得意を意味する。魔力はランクが存在し一番下はFであり最大がSSである。スキルは会得した能力、加護は認められた者のみに与えられる称号であり能力も与えてくれる時もあるという。
「4つまでなんでもいいなら……」
真はスキルのところに欲しい力を説明と一緒に書いた。
『創造[魔法]:魔法を自分で創造することができる』
『創造[スキル]:スキルを自分で創造することができる』
『魔力無限:魔力が尽きることなく無限に使える』
『全魔法適正:どんな魔法も習得できる』
「これで大丈夫……ですか?」
「ふむふむ……これでOKだね!」
こんなにチート級のスキルたちを神の許可が下りてしまい本当にいいのかと疑ってしまったがウェブレリタは指を鳴らしステータスボードに先ほど書き入れたスキルたちが反映されていた。
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名:日比谷真(仮) 歳:17歳(仮) 性別:男(仮) 種族:人間(仮)
魔法特性:全魔法
魔力:∞
スキル:創造[魔法]・創造[スキル]
耐性:なし
加護:神の加護《獣神王》
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「それじゃあ早速転生するための穴を作るね」
ステータスを確認し終わるとウェブレリタは足元に穴を作り始めた。真はその穴を覗いてみると暗く深く――いや、そもそもこれを穴と良いものなのか不思議な感覚を感じた。
「転生の準備ができました。すいません、我々のルールに縛ってしまって……」
ウェブレリタは転生の準備ができたのと同時に、真に謝罪を始めた。それはやはり転生をするにあたり自分にはこのような宿命を持って転生とするということに申し訳ないと思っているのだろう。
「謝らなくてもいいですよ。代わりに欲しいものをくれたので問題ありませんし、それにあなたとの会話は楽しかったので大丈夫ですよ」
確かに現実でありえないことが起きてしまい混乱してしまったが、神様のこの性格のおかげで短かった時間が何気に楽しかったのだ。
真は穴の前に立ち再度、中を覗いた。やはり中は暗く深いのに、この不思議な感覚はなんなのかよくわからなかった。
「それじゃあ神様、最後までありがとうございました」
ウェブレリタに体を向けて感謝を伝えそのまま背中から穴へと落ちていった。
自由落下をして風を受けているはずなのに不思議なことに受ける風は感じなかった。
そろそろ出口なのか光が見えてきた。
「これから始まる第二の人生……ま、何とかなるでしょう」
真は一応めんどくさがりな人であり何か起きればそのときに解決すればいいという考えの持ち主なのではあるが楽しい人生を送れるよう祈るのであった。