生贄
彼女に冷たい風が襲い目が覚めた。
(ここは……牢屋?)
起き上がり辺りを見渡して見るとそこはレンガによって作られた部屋であり一面だけ鉄格子になっている。だからここは牢屋だとわかり首には嫌な雰囲気を放っている首輪がつけられていた。
自分がどうしてここにいるのかわからない。覚えていることは教会で儀式をしたときに自分がフスタームに反応しなかったのに王は非常に喜んでおり馬車に乗せられて城へ向かったはずなのにどうしてここにいるのか。
そんな推理をしていると知らない男二人と身に覚えの人物が気味の悪い扉から入ってきた。
「うまく睡眠魔法の魔法陣が起動してなにより」
その人物はこの国の王、ドノヴァン・エスルマだった。ドノヴァンは上機嫌な笑いをしながら経緯を話し始めた。
「なぜ自分がここにいることを疑問に思っておるだろう? あの儀式には国を守る優秀な人材を分けるためのものであり、そして別の目的もあるのだよ」
カナリアはまだ状況が頭に入っていなかった。儀式が別の目的で行われている? そんな話は聞いたことがないからである。
「そんな話は聞いたことがないという顔をしておるな。もちろん、知っている人間は数少ない」
なら目的はなんなのかと考えこんでいると王はそんな時間など与えまいと話を進めた。
「この森には『神獣』様という神によって生み出された偉大なお方がこの国を守ってくださっているのだ。国に魔物をよらせないよう結界を張ってくださっている。その代わりにお主のようなものを生贄にするという条件で取引が行われているのだ。安心せい、お主のことは国に侵入した奴隷商売の人間に拉致されたで処理しとけば真実は闇の中じゃ!」
声高い笑いを出しながら王はその場を去ってしまった。
しばらくして王と一緒に入ってきた男二人がカナリアを持ち上げ外へと運ばれていった。外には馬車が停まっており荷台には鉄格子の牢が乗せられていた。牢の中に入れられその上に外から見られないように厚い布を被されてしまった。
どうしてこんなことになってしまったのだとカナリアは涙目になってしまった。何か魔法にかかっているのか声が出せないので助けを呼ぼうにも叫ぶことができず本来持っているはずの獣人の身体能力もこの首輪のせいで下がっており自力で脱出はできずどうしようもない状態である。
馬車は走り出し町の中を通っていいるのかにぎやかな声が聞こえる。
(そういえば……今日は儀式の感謝祭だったけ……)
毎年この時期になると開催される祭り、屋台には外の国の者も来るという大きな祭りであり他国との交流を深めるためのきっかけにもなるという。
外は祭りを楽しんでいる人々の声が聞こえる中、自分は今日、人生を壊されてしまい家族のみんなともう会えないという悲い感情が湧き出て涙が流れてしまった。そんな少女の気持ちはむなしく目的の森へと消えていってしまった。
◇
大雨が降り始めた。
馬車に乗せられずいぶんと時間が経たところで突然雨が降り始め風も次第に強く吹いた。風のおかげで布は取れ自分は森の中へと来てしまったと確認ができたが雨が降っているため体はだんだんと冷たくなってきた。
雨のせいで足場が悪くは上下に揺れ、少女はただ何もできずに鉄格子に体をぶつけ唸ることしかできなかった。
何もできずただ自分は国の闇を知った上でその闇は誰かに伝えることもなくただ運ばれていくしかなかった。
(もう、だめなのかな……)
暗い森の中、雨は先ほどよりもひどく降っており雲は黒くなってきた――その瞬間、真っ黒な雲から雷が馬の目の前に落ち馬たちは驚き馬車のスピードが速くなってしまった。
「おい! お前たち! そんなにスピードを上げたら――っは! 落ちる!!」
御者が大声で叫んでいるのに聞こえず馬はその先にある崖に気づくことができずそのまま馬車と一緒に落ちてしまった。
(ああ……また死ぬんだ……あれ? ”また”?――)
その言葉にカナリアは疑問を抱いた。どうして「また」という言葉が出てきたのか。だが、考える時間よりも先に地面に叩きつけられてしまった。
◇
「……」
馬車が崖に落ちて少し経ったあとに森の奥から四足歩行の大きな生物がカナリアに何かを確認するように周りをまわり始め、しばらくし何か確信をしたのかカナリアが入っている牢を破壊し彼女を銜え森の奥へと入っていった。