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獣人の少女

 音を立てて降る冷たい雨の中、馬車は不気味な森へと進んでいった。馬車には、鉄格子で作られた牢が乗せられており、その中に黄色の長髪にそれに似合わせた狐の耳と尾を持った女の子が横たわっていた。


 雨のせいで足場が悪く上下に揺れ、少女は鉄格子に体をぶつけ唸り、何もできないまま、進む馬車は森の奥深くへと消えていった。

 朝、小鳥たちはチュンチュンと声を立てて鳴いている。そんな声とともに母親と思わしき人物が毛布の中で気持ちよさそうに眠っている一人の少女の耳元に優しく囁くのである。


「ほら、カナリア起きなさい。今日は大切な日なのだから忙しくなるわよ」


 くすぐられるような声を聴きいた少女カナリアはかわいらしいあくびとともに体を伸ばすため毛布から出てきた。だがまだ眠いため毛布にくるまろうとした時にはもう母にダイニングルームへと連れていかれていた。


 ダイニングルームへ着くとそこには朝食が並んでおりこれを円で囲うように父と弟が座っていた。


「おはよう、カナリア。本当にお前は寝ることが好きだな」


 父親はやれやれと言いながらもかわいい娘のいつものことに笑みを浮かべており、弟は無口で表情をあまり出さない子ではあるが姉におはようと首をコクンと返事をした。


「ほら、早く食べないと儀式に遅れるわよ」

「は〜い」


 カナリアは眠気が覚めていないため曖昧な返事をした。

 

 ここ『ティア』という森の中に存在する大きな国でありここには獣人が住んでいる。そして儀式とは、この国において働くための魔力を測り、国で働ける階級を得ることができるのだ。このような仕組みはこの国独自のものであり、力を持つものが国や王を守り、力を持たぬものはその力を持つものの力になる仕事をするという制度がある。


「いってきます!」


 彼女の名前はカナリア。狐の獣人で黄色い長髪に同じ色の耳と尻尾を特徴とし、今年で十歳になる陽気な少女である。ちなみにカナリアのような狐の獣人を狐種(きつねしゅ)と呼び獣人は獣のような耳と尻尾を持っている人類のことをまとめてそう呼ぶのである。


 支度を終えたカナリアは儀式を行う会場へ走って向かった。走っている中、町の光景は森を開拓し作られたのでレンガなどが少なく木を主に材料とした建物が多い。


 そんなことを考えているうちに目的の会場へ到着した。会場は神が存在する『神域』に近い場所と信じられている教会である。


 教会の中は、先ほどまで賑やかだった町の人たちの声はなくなり無音に近い空間へと変化した。周りを見渡してみるとそれなりの人数が儀式に参加しておりこの国で自分と同じ歳の人たちがこんなにいるのだと能天気なことを考えているので他の人たちと比べると緊張感が欠けている。


 教会の中心には藍色(あおいろ)の大きな透明のクリスタルが浮いておりその周辺には円の装飾品がクリスタルを中心にして回っていた。これを『フスターム』と呼んでいる。この国で働くための階級をこのクリスタルに触れることにより祭壇に透明なプレートに映り階級分けは映しだされたステータスに記載されいている魔力で大司教様が決めるそうだ。


 しばらくして時間になったのか奥の扉から大司教様が出てきた。


「それではこれより階級の儀式を始める! これは国の未来がかかっている。この場には国王様もおられる。では、まずはそこの少年から始める」


 大司教様は大きな声で儀式の宣言をし最初の人をフスタームの前に呼んだ。少年は緊張しながらもクリスタルに手を伸ばした。次の瞬間、クリスタルは大きな光を放ち装飾品はものすごい速度で回り始め徐々にその現象は収まり落ち着いたところで大司教様の前へ行き結果を聞いた。


「それではそなたの階級は……なるほど、『コントリブス』であるな」


 周りの人たちがざわつき出した。『コントリブス』とは宮廷で働くということを指しておりいわば力を持つものとして選ばれ、その中で主に 『魔法師』や『騎士』などの職につけることができる。それ以外は国で商売や農作、武器を作るなどといった生産をメインとする『プロディデント』が付くのである。


 次々と階級分けがされていく中、ようやく自分の出番が呼ばれ立ち上がりフスタームの前へと歩き始めると、先ほどなかった緊張が一気に湧きでしまった。それでも立ち手を伸ばした。


 しかし事は起こった。そう、クリスタルは反応しなかったのである。


 空気が一瞬にして凍った。


 そんなことが起きるのかと周りの人たちは騒然( そうぜん)とした。それもそうだ。先ほどまで反応を見せていたクリスタルが何も起きないのには疑問を抱くのも無理もない。そして一番不安がっているのがカナリアだ。反応しない事は今まででそんな事例は聞いたことがないのだから。いつまでも落ち着きを見せない教会の中で、ある人物が動いた。その人物は......


「彼女か! 彼女こそが奇跡の子か!」


 喜びの声が教会に響き、カナリアに近づいてくる者が一人いた。それはこの国の王『ドノヴァン・エスルマ』であった。


「お主はこの国の一番の役割を持っている貴重な人材。お主は今から我が城へ来てもらう!」


 王はあらかじめ用意されていた思われる馬車にカナリアを乗せ彼女だけが城へと向かわさせた。突然の出来事にカナリアは混乱してしまっていた。クリスタルは反応しなかったのに『奇跡の子』『この国の一番の役割を持っている貴重な人材』と言われ馬車に乗せられ城へと向かわされているのだから。


 そんな出来事に頭を回しているうちにだんだんと眠くなってきてしまった。馬車が揺れているのでそれで眠くなっているのだと思い、しばらくして小さな寝息を立てて眠ってしまった。だがこの眠気は意図的に起きたことだと彼女は知らないのである。

感謝

読んでいただき誠にありがとうございます。初めて小説を書いてみたので不安なところが多いですができる限りのところまでがんばってみました。現時点(2024年10月23日)にて一章全10話ができているため毎週金曜日の午後9時に投稿をします。二章からは11月に書き始める予定です。今後の『黄色い狐と黒の冒険者』を読んでいただくと嬉しいです。様々な展開をしていきたいと思っているので応援、よろしいくお願いします。

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