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アンジェリカ(義妹)


 陛下の無茶ぶりを快く引き受けた俺は、期待の目に晒されながら謁見の間から優雅に退場した。


「・・・どうしよう」


 ああするしか無かったとはいえ、やってしまった。

 この世界のモンスターが異常に弱いとか無いかな。

 無いだろうな。


「勇者様、お疲れさまでした」


 扉の前から離れ、ふらふらと彷徨っていると、ユズハが迎えに来てくれた。


「ありがとう。はぁ」

「どうかされましたか?」

「そうなんだよ。後で聞いてくれ」

「かしこまりました」


 格好良く出陣したのに、戻ってきたら愚痴をこぼす勇者。

 それでも文句も言わずに承諾するユズハ。

 さすがのパーフェクトメイドである。


 城の中をしばらく歩くと、歩廊に出る。

 連絡通路を抜けると勇者邸の近くまで行けるのだ。


「そういえばこの世界って」

「カケルさまーー!!」

「ん?おっと」


 声に振り向くと、ポスンと誰かに抱き着かれた。

 この子は確か、


「エステルの妹?」

「はい、アンジェリカ様です」


 アンジェリカと呼ばれた少女は笑顔で俺を見上げている。

 金髪に碧眼、髪の長さがエステルより短い以外は本当に似ている。

 強いて言うなら目がくりくりとしている点と、笑顔の大きさが違うくらい。


「えへへ、大きいね」


 そう言うと、彼女は俺から離れてくるりと一回転。

 淡い青色のドレスの裾をちょこんと掴み、


「アンジェリカ・リ・ガレリアです。アンジェって呼んでね」


 可愛く自己紹介してくれた。

 

「アンジェか。よろしくな」

「うん!カケルさま」

「それで、俺になにか用があるの?」

「一度、ご挨拶しなくちゃと思って!」


 良い子じゃないか。

 直感が告げている、この子は大丈夫そうだと。

 見た目は小中学生くらいだろうか。

 少し子どもっぽい気もするが、こんなものかも知れない。


「わざわざありがとう。俺から行かなくてごめんね」

「ううん!お姉さまから忙しいって聞いてたから!」


 当たり前ではあるが、お姉さまか。

 普段のエステルは家族の前でどんな顔をしているのだろう。


「エステルと仲が良いんだね」

「うん!優しくて、頭がよくて、わたしもお姉さまみたいになりたいの」

「へ、へぇ・・・」


 できれば思い直して欲しいけど、彼女の夢は壊せまい。

 しかし、エステルは家族の前でも完璧なのか。

 表の部分だけなんとか継承してくれることを祈ろう。


「ねえねえカケルさま!」

「どうしたの?」

「お姉さまと結婚するんでしょ?」

「え・・・」


 期待の眼差しが向けられる。

 なるべく考えないようにしていたのに。

 結婚とか夫婦よりも、主従関係とか飼い主とペットに近い関係なのだけど。

 

「そ、そうだね!」


 こう答えるしかあるまい。

 俺の気持ちはどうあれ、対外的にはこうなっているのだから。


「やっぱり!お姉さまいつもカケルさまのお話をしてるもの!」

「へ、へーそうなんだ」


 『今日は鞭で叩きましたの』とか『首絞めが』みたいな話でもしてるのかな。

 流石に無いか。少し気になるけど。


「結婚したら、わたしのお兄さまになるんだよね?」

「あー確かにそうだ」

「えへへ、そしたら『お兄さま』って呼んでもいい?」

「も、もちろん!」


 今のは驚いただけで、変な意味で心臓がドキリとしたわけではない。

 しかし、

 

 (・・・いいんじゃない!?)


 異世界生活、初めての義妹。

 正式にはまだだが、この子が義妹になるならエステルがちょっとアレでもお釣りが来る、と思う。

 強烈なロリコンではないから、あくまで可愛い妹として見れる。

 俺は『ほどほどのロリコン』だから。


「お兄さま!・・・お兄さま?」

「・・・ふへ」

「もう!お兄さまったら!」

「はっ!妄想じゃない!」


 頭の中で『お兄さま』が反響しているだけかと思った。

 なにこの破壊力のあるワード。

 最高じゃないか。


「変なお兄さま」

「ご、ごめん」

「勇者様・・・」

「・・・誤解なんだユズハ!俺はロリコンじゃない!」


 ほどほどなんだ!

 ドン引きしているユズハに弁解をしたが、ジト目で見られる。

 そんなに変態チックな顔だったんだろうか。

 誤解なのに。

 

 でも女の子が二人いる状態で、ユズハの名前を叫んでも鞭やらが飛んで来ないのは新鮮。

 ちょっと楽しい。


「じゃあわたしそろそろ行くね!」


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 妹君はおかえりのようだ。


「あぁ、また今度」


 残念だけど仕方ない。

 次の機会を待つとしよう。


「ねぇお耳を貸して?」

「ん、どうしたの?」


 耳を貸してなんて、子どものようで可愛いじゃないか。

 俺はかかんで目線をアンジェに合わせた。

 目を合わせると彼女は「えへへ」と笑顔を作り、俺の耳に手を当てる。

 こそこそ話スタイルだ。

 そして、

 

「・・・また、会いたい?」


 そう囁いた。

 身体の血の巡りが一気に良くなったように、熱くなる。


 (嘘だろ・・・俺はロリコンじゃない・・・!)


 これは子どもが無邪気に聞いているだけなのだ。


「そ、そうだね。できれば」


 この子にまた会いたいのは事実だ。

 しかしそれは楽しい時間を過ごしたいからという純粋な理由。

 邪な考えなど無い。


「えへへ、嬉しい。・・・ちゅっ」


 柔らかく、やや湿り気のある何かが俺の頬に触れた。

 

 異世界生活希望者の皆様ごめんなさい。

 俺、先に逝きます。


 (・・・いや!これは子どもの可愛い愛情表現じゃないか!)


 確かに今俺は頬にキスをしてもらった。

 血圧は上昇しているし、脈拍も異常数値かもしれない。


 しかし、脳内はピンク色ではない。

 幸福感。そう、幸福感に満ちているだけ。


「あ、ありがとう」

「えへへ」


 ちょっと恥ずかしそうにしているが、未来の家族への愛情表現だ。

 

 (・・・この世界に来て良かった)


 満ち足りた気持ちでかかんだ身体を持ち上げる。

 今日も良い天気・・・だ・・・な?


「・・・・・・」

「あ・・・」


 エステルが立っていた。

 いつからそこに、いやどこから見ていた。

 やましいことはしていないのに、血が冷えていく。

 

 幸福感とはなんだったのか、非常事態宣言発令。

 

 そういえば、徳が無いと不運が訪れやすいとか言ってたなぁ。 


 



勇者カケル


 レベル3



スキル


 ・とくしゅ言語知覚(モンスターの声が聞こえる)



魔法


 ・ちくわ(火)

 

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