第96話 アイドルになったほうがいいかな?
今、俺は決心しようとしてる。
とても大事なことだ。
それは『アイドルオーディション』のことだ。
そろそろオーディションが来る。
その前に手紙を出さなきゃいけないんだけど、それは勝手に姉ちゃんが出した。
でも、キャンセルしたかったら電話してキャンセルしてもらえる。
だからまだ変更できる。
それで、俺の意思はなんなのかを考えていた。
アイドルになりたいのか、なりたくないのか。
それでもう何時間も考えてる。
……よし、一人じゃ決められないから総一朗に相談しよう!
総一朗に電話をかける。
一瞬で電話に出た。
『どした?』
「ちょっとさ、相談したいことがあるんだけど」
『女のことか?』
「いや、俺のこと」
『……なんだ?』
なんか総一朗の声のトーンが下がった。
真面目に聞いてくれるっぽい。
「俺さ……、アイドルになろうか考えてるんだけど……」
『……ほへ?』
「アイドルだよ、アイドル」
『ア、イ、ド、ル……?』
「ああ」
『ほへー!?』
めっちゃうっさい声がスマホから聞こえる。
マジでうるさい。
しばらく沈黙になる。
「……落ち着いたか?」
『あ、ああ……』
「でさ、これからオーディションがあるんだけど、行こうか悩んでるんだ」
『へー……』
「本当は俺が決めるべきなんだと思うけど、お前の意見を聞きたいんだ。アイドルになったほうがいいかな?」
『……まぁ、お前はアイドル似合うからな。いいと思うぞ?』
「でも、本当にそうしていいのかわからないんだ。自分がなにをしたいのかわからなくて……」
『あー、そういう系か』
他にどういう系があるんだろう……。
『俺はお前がアイドルになったら全力で推すぞ? それに、アイドルなんて楽しそうじゃねぇかよ。やんな?』
「でも、そしたらあんまり学校に行けなくなったりするだろ? そしたらお前や咲羅に会えなくなっちまうかもしれない」
『寂しい、みたいな?』
「いや、なんていうか……。お前や咲羅は俺を認めてくれたやつなんだ。だから……、大切にしたい」
『お前が俺にそんなこと言うなんて珍しいじゃねぇかよ。ま、俺はお前がアイドルになることを応援するな。そしたら学校の連中を見返せるし』
「お前もそういう考えか。わかった、ありがとな」
俺は窓から外を見る。
雨が降ってて、空が暗い。
「――あ、あと、このこと誰にも言うなよ? 大騒ぎになったら大変だからな」
『……すまん、天太』
? なんで謝る?
……まさか……!
『さっきの沈黙の間……、メールしちゃったんだ』
「……なんで電話しながら?」
『スマホ2台持ってるから……』
「おい、待て、誰に言った?」
『それは――』
総一朗の声を遮って、インターホンの音が聞こえる。
……まさか……!
俺急いで玄関まで行く。
姉ちゃんがドアを開けようとしてた。
「姉ちゃん! 俺が出る!」
姉ちゃんにそう言って、俺はドアを開ける。
そこには、ずぶ濡れの咲羅がいた。