第9話 また怒られた
「おーまーえーなー……!」
また本読んでたら総一郎が言ってきた。
「咲羅さんとまた登校したんだって!?」
「え……、まぁ……」
「しかも手つないで走ったんらしいな!」
「あ、ああ……」
「…………」
黙り込む総一郎。
めっちゃ俺を睨んでる。
怖い。
怒ってる……?
「……一つ質問をしたい……」
「な、なんだ……?」
「匂いはどうだった?」
は?
匂い……?
「走ってるときに感じただろ!? シャンプーの匂いとか! どうだった!」
「どうって……。あんま意識してなかったし……」
「意識して嗅げよ! 男だろ!?」
はぁ?
男なら意識して女の髪の匂いを嗅げと……?
普通に変質者じゃないか?
「まぁ、いい匂いだったのは覚えてる」
「どんな匂いだ!」
「どんなって……、なんかの花の匂いっぽかった」
「どういうところの匂いだ! ラベンダー畑とか桜とか!」
ええ……。
そんなこと言われても……。
しかも総一郎の『桜』って単語で昨日のことを思い出すな……。
白糸咲羅の好物は桜もち。
イメージカラーは桜色だな。
「で、どうなんだ!?」
「あのな、俺はインドアでラベンダー畑とか行かねぇんだよ。それはお前も知ってんだろ?」
「……今日だけは許してやる」
総一郎は俺の机を『ドン!』と叩き、どこかへ行った。
嫌われた……?
唯一の友達を失いたくないよ……?
「木神! お弁当つくってきたよ!」
この声……。
隣に白糸咲羅がいた。
めっちゃ笑顔。
本当にデレデレじゃん……。
「べ、弁当?」
「うん! お母さんが出張なんでしょ? だから!」
「でも、他の女子がつくってくれて――」
「は? その女子のお弁当食べるの?」
……え?
白糸咲羅……?
「木神のことをバカにしたやつのお弁当食べるの? 私のお弁当じゃなくて」
ちょ、待って待って。
なんか声色変わってない?
めっちゃ怖いんだけど。
「え、待って。1回落ち着こ?」
「ねぇ、早く言って。どっちがいいの?」
これツンデレじゃない!
ヤンデレじゃん!
「……悪いけど、それは……」
「…………」
黙り込む白糸咲羅。
ヤバい、これ怒られるやつ……?
「……せっかく……つくったのに……?」
へ? 白糸咲羅?
今度は泣きそうな声なんだけど大丈夫?
情緒不安定?
「え、あ、で、でも! 弁当一つじゃ足りないから! よかったらその弁当も食ベさせてくれるか? その弁当美味そうだし、食べたいなー!」
俺は立ち上がって、白糸咲羅の手を握る。
よし、俺のこの完璧な演技力で――
「――あ、またイチャイチャしてんのかよー!」
後ろから男子生徒の声と共に、俺の背中が押される。
俺は前に倒れる。
しかも、白糸咲羅を巻き込んで。
俺たちが床につくと同時に、男子、女子生徒の叫び声が教室を包んだ。
※謝罪したいことがあります。
今回の話で、総一郎の『男なら女の髪の匂い意識して嗅げ』という意見に、天太が『それ変質者じゃん』と思っている描写がありました。
これは決して、普段から異性の髪の匂いを意識して嗅いでいるお方を傷つけようとしているわけではありません。
この物語は一人称視点のため、天太が思っていることのみを書いています。
誤解を招くような描写をしてしまい、申し訳ございませんでした。