第89話 過程
『――ってわけ。ごめんね、天太』
夜8時。
咲羅に今日のことを電話で訊いた。
なんで名取真央が出たのかわからなかったし、咲羅が言ってた『騙す』とかよくわからなかったし。
それを今全部聞き終わった。
どうやら名取真央は咲羅に、俺から湊亜を遠下げるってことを提案したらしい。
名取真央の目的はわからない。
でも、湊亜を少し妬んでいた咲羅と協力して湊亜になにかをしたかったんだと思う。
咲羅はその場では返答しなかった。
で、海川柚斗がその瞬間を見てて咲羅と話した。
『あいつはお前らを騙す気だ、絶対に協力するな』って、咲羅に言ったらしい。
本気で言ってる海川柚斗を不思議に思って、咲羅は『なぜそこまでするのか』と海川柚斗に訊いた。
海川柚斗は名取真央と中学校が同じで、そのときに、なにか騙されて酷い目にあったらしい。
だから今度は名取真央を騙すことにした。
海川柚斗にそのことを提案すると、言音も中学時代、名取真央に騙されたということがわかった。
だから海川柚斗と言音は、名取真央が騙される瞬間を見ることにした。
咲羅が名取真央に協力すると言うと、名取真央は俺を屋上に呼び出すように命じた。
咲羅は名取真央を騙すついでに、湊亜とも仲良くしようと考えた。
俺に近づく湊亜が、咲羅にとっては面白くなかったらしい。
だからどうしても、自然と仲良くすることは無理そうだった。
だから名取真央を騙して心がスッキリした状態で湊亜と握手して、ちゃんとした友達になりたかったらしい。
実璃もちょっとは関係してたみたいだけど、都合が合わなくて例の瞬間を見れなかったらしい。
……うん、普通にすごいな。
これ全部咲羅が考えたことでしょ?
すごいな。
湊亜も咲羅と仲良くできて嬉しそうだったし。
『――そろそろ夏休みじゃん? みんなでどこか行きたい?』
「夏休みにか?」
『うん』
『行かない?』じゃなくて『行きたい?』って言うところがツンデレって感じがする。
「あー、いつくらいだ? 8月上旬とか」
『まだ決めてない。希望あるの?』
俺は机に置いてある紙を見る。
アイドルのオーディションのやつだ。
オーディションは8月27日にやるらしい。
「8月下旬は予定あるから、それ以外でお願い」
『わかった』
そう言われて電話は切れた。
もう夏休みか……。
宿題めっちゃ出たな……。
めんどうくさいけどやろ。
それ以外やることないし。