第87話 そろそろ夏休み
途中から三人称視点になります
「天太ー! そろそろ夏休みだねー!」
部屋で勉強してたとき、姉ちゃんが勝手に入ってきた。
今日は日曜日で、学校は休み。
昨日期末テストが終わった。
あとは答案返却日だけある。
「あのなぁ、勝手に入ってくんなよ」
「いいじゃん! 別にエッチな写真集とかあってもなんにも言わないから!」
「そんなの持ってねぇし!」
「そんなに恥ずかしがらなくていいよ! 天太もそういうお年頃なんだし」
「そもそも人間が嫌いだった俺が人間の身体に興味があると思うか?」
「……それは……、ごめん……」
あ、今日の姉ちゃん意外と素直。
「――で、用は?」
「あ、忘れてた。これこれ!」
姉ちゃんがなにか紙を俺に見せる。
『アイドル募集!』……?
「夏休みにオーディションがあるんだって、天太! やらない?」
「やると思ってんのか?」
「アイドルだよ!? アイドル! 想像してみてよ! キラッキラの衣装着て、広いライブ会場とかでスポットライト浴びて、みんなに注目されるんだよ!」
キラッキラの衣装……。
スポットライト浴びる……。
みんなに注目……。
うん、絶対に嫌だ。
拷問じゃん、そんなの。
「嫌だ」
「えー、でも有名になれるよ?」
「有名なんかになりたくねぇよ……」
「……これがチャンスなのに……」
姉ちゃん?
なんか今つぶやいたよね?
「これ、結構チャンスだと思うよ?」
「なにが?」
「思い知らせてやること。『お前らがバカにした木神天太はこんなにすごいんだぞ』っていう」
「……なに考えて――」
「ま、紙は置いとくから」
姉ちゃんは床に紙を置いて部屋から出ていった。
俺は机から離れて、その紙を持った。
『思い知らせてやる』か……。
確かに、結構いいかもな。
でもな……。
オーディションってことは、なんかできなきゃいけないからな……。
俺に特技なんてねぇし……。
――いや、あった。
俺には演技力だ!
なんか楽しくなってきた。
どうしようかな? オーディション行こっかな?
そう思ってたらスマホが震える。
誰かから電話がきた。
咲羅?
『もしもし?』
「ああ、どうした?」
『今さ、ちょっとだけ時間ある?』
「ああ、いつでも暇だぞ? 俺は」
『うん、ありがとう。ちょっとさ、明日放課後屋上に来れる? 答案返却日』
「わかった」
俺が言うと、電話が切れた。
明日、か……。
「――本当になに考えてるんですか?」
電話を切った咲羅に実璃が話しかける。
二人は今、同じ場所にいた。
「これしか手がない」
スマホをポケットにしまう咲羅。
「これも天太のため」
「……天太さんのため、じゃなくて『私たちのため』が正しいと思うんですけど」
「……そうだね」