第86話 湊亜を案内し終わった
「なんかごめんね。こんな遅くまで」
午後5時。
やっと湊亜に学校を案内し終わった。
「いや、全然大丈夫。どうせ帰ってもすることないし」
「でも友達と一緒に帰るつもりだったんでしょ?」
「いや、友達がいないから」
「え、いや、いるでしょ! 咲羅……ちゃんだっけ?」
ああ、咲羅か。
咲羅は友達なのかな……?
向こうがどう思ってるかわからないし……。
「でも、いい学校だね、ここ」
「そうか? ま、気に入ってくれたならよかった」
「うん、みんないい人そうだし」
「いい人なのか……?」
「いい人っぽかったよ?」
『ブタ』とか呼んでて、家の態度とった瞬間好きになってくるやつがいい人……?
ま、まぁ、それが一般的な『いい人』なのかもしれない。
「あ、天太くんの他にももう一人メール繋いだんだ」
ポケットからスマホを出す湊亜。
そしてしばらくいじったあと、画面を俺に見せる。
メール繋いだ人って総一朗じゃねぇかよ……。
「江島くん、とっても親切にしてくれたんだ。『下心とかないから、いつでも俺に頼ってこいよ!』って言ってくれたし」
「下心しかないから気をつけろよ」
「え、そうなの?」
「ああ。……でも、たまにかっこよくなってくれるときもあるけど」
例えば体育祭。
あのときの総一朗はかっこよかったな……。
「……って、メール繋いだの俺と総一朗だけ!? 少なくない!?」
「いや、この学校に来たばっかだから……」
「湊亜の場合もっと多くてもおかしくないじゃん! 男子に人気だし!」
「いや、正直……、まだあんまりみんなのこと信じられないんだ……」
湊亜?
なんか急に声のトーンが低くなった。
「いつ裏切られるかわからない、そう思うとなかなか行動できなくて。でもね、直感でわかる人もいるんだ、この人は大丈夫、って。それが天太くんや江島くんなの」
……なんかあんまり触れないほうがよさそうだな……。
別の話するか。
……でも話のネタがない。
最近あった面白いこと……。
……うん、なんにもない。
「天太くんはさ、『いじめられるほうが悪い』って思う?」
ヤバイ、これ話して大丈夫なのかな?
結構湊亜の過去に関わってきそうだけど……。
……いや、湊亜のやつ、実は俺にそのことを話したいのか?
わからないな……。
とりあえず答えとくか。
「俺はそう思わない」
「……ありがと」
微笑む湊亜。
普通にかわいい。
「じゃ、一緒に帰ろ!」
急に声のトーンを上げる湊亜。
……なんか大丈夫だったみたい……。
皆さんは、いじめられるほうも悪いと思いますか?