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第84話 湊亜を案内しよう

 「広いね、校舎」


 1時限目が始まる前に、少しだけ夜泉湊亜を案内することにした。

 だから今案内してる。

 最初に保健室に連れて行くことにした。


 ……でも、なにかおかしい。


 夜泉湊亜を案内してるのは俺だけ。

 うん、確かにおかしい。


 夜泉湊亜はさっき、男子生徒にすんごい人気だった。

 だから、『俺も案内してあげるよ!』とか言って勝手についてきたりするはずだ。

 なのに誰もついてこない。


 ただ俺たちをチラチラ見てるだけだ。


 「ねぇねぇ、なんて名前なの?」

 「木神天太。よろしくな」

 「うん! よろしく!」


 なんて反応すればいいんでろう……。


 「天太くんって呼んでいい?」

 「ああ、お好きなふうに」

 「じゃあ私も『湊亜』って呼んで」

 「わかった」


 本当になにを話せばいいかわからない。

 初対面だからめちゃくちゃ緊張してる。


 「天太くん、モテるでしょ?」

 「悪い方でな」

 「? 普通に女の子に人気って意味だけど……」

 「女の子に不人気でした」

 「えっ、ちょっ、なにがあったの!?」

 「ちょっと前までブタでした」

 「なにが!? 天太くんブタなの!?」


 ああ、よみがえる思い出……。

 マスクとサングラス外しただけなのに……。


 あと、気になることがある。


 「なぁ、湊亜、それって地毛か?」

 「あ、髪?」

 「ああ、染めてるのかなって」

 「地毛だよ?」


 へー……。

 うん、それだけ訊きたかった。


 「天太くんってさ、彼女とかいるの?」

 「いるように思えるか?」

 「いると思うよ? イケメンだし、性格もよさそうだし、なんか知的だし」

 「ああ、お前は知らないのか」

 「なにを!?」


 俺が嫌われてたこと。

 ま、知ってるわけないか。


 「――あ、ここだ」


 ちょうど保健室が前にあった。

 ああ、懐かしいな。

 俺の地声と素顔がバレたとき、初めてこの学校の誰かと一緒に行った部屋だ……。


 「意外と近いんだね」

 「まぁ、そうだな」

 「ありがと、とりあえず授業だから、またあとで案内してくれる?」

 「わかった」


 俺たちは、俺たちの教室に向かった。


 こういうときに咲羅と会ったら嫌だな……。

 なんか言われそうだし。


 「――天太?」


 うん、早速来たわ。

 後ろから咲羅の声。


 俺と湊亜が同時に振り向く。


 ちゃんと咲羅が驚いた表情をしてこっちを見てる。


 「あ、天太くんのお友達?」

 「まぁ、そうだ」

 「ちょっと待って、天太。誰?」

 「俺か? 俺は木神天太」

 「いや、天太のことじゃなくて、その女子生徒」


 あ、咲羅は湊亜のこと知らないのか。

 転入生だもんな。


 ここは俺が湊亜のことを紹介したほうがいいのな?

 それとも湊亜が自己紹介したほうがいいのかな?


 「あ、今日この学校に来たんだ。夜泉湊亜っていうの、よろしく」


 湊亜が自己紹介してくれる。

 この二人、相性大丈夫かな……?


 そのとき、チャイムが鳴った。


 ……授業遅刻だ……。

『ちょっと待って、誰?』って言われて自分の名前を言うこと、よくありますよね……?

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