第82話 言音と登校
俺は無言で玄関のドアを開ける。
もう『じゃ、行ってくる』って言うのはやめた。
今母さんはトイレにいる。
朝から腹の調子が悪いらしい。
姉ちゃんは友達と遊びにいってるらしい。
こんな早い時間から。
ミミは知らない。
多分ひなたぼっこしてる。
「おっはよーございます!」
なんかクソテンション高い声が聞こえてくる。
あいつの声だ……。
声が聞こえてくる方向を見ると、言音がいた。
「木神先輩、朝に弱いんですか? 眠そうですよ?」
「眩しいだけだ、外の世界が」
「なにそのアニメの名言みたいなやつ!」
「本当のこと言っただけ。ってか、お前は眩しくないのか?」
「全然? 逆に眩しいんですか?」
「ああ、クソ眩しい」
「へー……。……あ、一緒に登校しましょうよ! 木神先輩がよろしければの話ですけど」
「今まで嫌われてたやつが『一緒に行こう』って言われて一緒に行かないと思うか?」
「えっと……、オッケーってことですか?」
「ああ」
「よし!」
そんなに嬉しいんだ、俺と登校できて。
……! 気づいてしまった!
言音がこんなに喜ぶ理由!
言音も今までずっと独りで登校してたのか!
それで、みんなで登校する楽しさに気づいて、俺と登校しようとしてくれてるのか!
「――天太?」
言音と並んで歩いてたら、後ろから声。
しかもこの声……。
俺は振り向く。
予想通り咲羅がいた。
隣には実璃もいる。
二人とも結構驚いてる表情してる。
「だ、誰……? その女……」
咲羅、言ってることが結構危険だぞ……?
お前はツンデレだからな?
「あ、あなたが白糸先輩ですか! はじめまして! 木神先輩と同じ部活の、赤木言音です!」
あ、言音の名字『赤木』っていうんだ。
へー……。
「部活って……、天太さんもう入ったんですか?」
「ああ、昨日入った」
「木神先輩、もう一人のお方は木神先輩のお友達ですか?」
もう一人って実璃のことかな?
「まぁ、友達」
「木神先輩もかわいい人にモテますねー! ま、その顔なら当たり前ですけどね! 木神先輩、いつも白糸先輩たちと登校してるんですか?」
「あ、ああ……」
「白糸先輩羨ましいなー……。いつも木神先輩と登校できて」
「なんで私?」
「と、とにかく歩こうぜ! みんなで行こう!」
俺は歩き始める。
危ない危ない。
あれ以上会話してたらケンカになりそうだった。
咲羅、あんまり言音のこと好きじゃなさそう。
今だってちょっとだけ言音のこと睨んでるもん、咲羅。
なんか変な面子だな……。
次回、新キャラクター出ます!