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第75話 本当の自分を表現しろ

 立ち上がる俺。

 そして白線に並ぶ。


 次が俺の番だ。

 総一朗も俺の隣りに並んでる。


 総一朗がなんか変な準備運動してるけど、そんなのは気にしてられなかった。

 すぐ目の前には、うつむいてる咲羅。


 『本当の自分』を表現できなくて悲しんでる。

 俺に話したことで、そういう感情が強くなっちゃったのかな?


 でも今の俺に何ができるんだ……?


 そろそろ俺にバトンがくる。

 せめて、咲羅をなんとかしてから走りたいな……。


 でも、今この時間で何かできるとは思えない。


 ああ、あと少しで俺にバトンが――


 ――いや、待てよ……?

 これって絶好のチャンスじゃねぇか?


 「なぁ、咲羅!」


 俺は咲羅に向かって叫ぶ。

 咲羅は少しだけ顔を上げて俺を見る。


 「頼みがある! 俺がこのリレーで1位になったら、『本当の自分』を表現しろ!」


 言ってみたかった言葉。

 『俺がこれに成功したら結婚してくれ』みたいなやつ。


 ……って、絶対これ無理じゃん!

 俺が1位なんてとれるわけないし!

 むしろ3位をとるほうが簡単じゃん!

 ……みんなそっか。


 俺は前の走者からバトンを受け取る。

 もう総一朗と青組のやつは、すでに俺の前を走ってる。


 ヤバイ……、どうしよう……。


 ……いや、追いつけるな……。


 俺は超久しぶりに、超全力で走る。

 ギリギリ総一朗のところまで追いついた。


 この代償、ヤバそうだな……。


 「――なぁ、天太、さっきの言葉、聞いてたぞ」


 走ってる途中に総一朗が話しかけてくる。

 こいつは余裕そうだ。


 俺は喋れるほど余裕がないから、黙って総一朗の言葉を聞く。


 「咲羅さんとあんな約束したんだな」

 「…………」

 「お前には似合わない約束だな。1位じゃなくて3位のほうがよかったんじゃないか?」

 「…………」

 「ま、1位のほうがかっこいいけどな」


 こいつめっちゃ喋るな。

 よくこんなに喋りながら走れるな。


 「……お前にかっこつけさせてやるよ」


 ? 総一朗?


 「勘違いすんなよ? 主人公はな、仲間のことを思いやって、自分を犠牲にするやつのこというんだからな?」


 本当に何言ってんだ……?


 「咲羅さんを元気にさせられるのはお前だけだからな。男子全員のぶん、咲羅さんを幸せにしろよ?」


 マジで何言って――。


 そう思ってたら、総一朗が転ぶ。

 そして、青組の生徒の脚に引っかかった。


 青組の生徒も転ぶ。


 「っ、総一朗!」


 俺は足を止めかけた。

 でも、ギリギリ止めなかった。


 ほっぺが擦れて、傷ができてる総一朗の顔を見たからだ。

 めっちゃ痛そうなのに、微笑んでる。


 『頑張れよ』。

 そういう顔してる気がする。


 俺は前を向いて走った。

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