第74話 リレー中
リレー中。
みんな走ってる。
一人校庭1周走らなきゃならない。
結構長い。
それは正直どうでもいい。
なぜか俺がアンカーになった。
なんか俺が知らないうちに決めてたらしい。
そしてもっと驚くことがある。
赤組のアンカーが総一朗。
どう考えても総一朗はアンカーになれるほど足が速くない。
……それは俺も同じか。
青組のアンカーは知らないやつ。
そして青組で最初に走るのは咲羅。
走り終えたら、青組のアンカーの後ろに並ぶ。
だから今、咲羅と俺は近い。
さっきのことについて咲羅と話したかった。
でも咲羅からは『今は話しかけんな』っていうオーラが出てる。
だから話しかけられなかった。
どんどん近づいてくる俺の番。
マジで走りたくない。
「天太、お前には負けねぇぞ」
さっきのことを知らない総一朗は呑気な声で俺に話しかけてくる。
「ああ、そうだな」
「優勝して俺が主人公になってやる」
「はいはい、そうですか。頑張ってくださいね」
「ああ、俺こそ主人公だ!」
本当に何言ってるんだ?
ま、妄想くらいさせてやるか。
それより、俺もあのときのことが頭をよぎってる。
思い出したくないけど、どうしても思い出してしまう――
「――なー、天太! 帰りにラーメン行こうぜー!」
中学2年生、木神天太。
俺に話しかけてくるのは、めっちゃ仲がいい男友達。
「あ? いいな! 行こうぜ! 昨日は駅前んとこ行ったし、今日はお前の家の近くのとこに行こうぜ!」
元気に言う俺。
声のトーンも高い。
顔に満面の笑みを浮かべてる。
「おう! やっぱ天太といると楽しな! 同じクラスになって正解だったせ!」
「だろ? 俺って結構モテるからさ」
「あー、確かにお前イケメンだからな」
「いや、そこは『いや、モテてねぇよ!』って言うところだろ!?」
俺と男は笑い合って、学校から出た。
今思うと、最悪な思い出だ。
ここまでの思い出はまだいい。
問題はここからなんだ。
「――天太、天太!」
総一朗が隣で大声を出してる。
そのおかげで我に返った。
「あ、ああ……。なんだ?」
「いや、ボーッとしてるから。それに、そろそろ俺たちだぞ?」
「え、マジ?」
俺は校庭を見渡す。
今、1位は赤組、2位は白組、3位は青組。
たいして差はない。
そして、俺の前にはもう一人しかいない。
本当にあとちょっとで俺だ……。
あーあ、マジで走りたくないわ……。