第73話 ストレス発散の方法
「咲羅……」
「教えてよ……! わかんないよ……!」
咲羅はシャーペンの芯を出してそれを逆手に持つ。
そしてそれを上に上げた。
『自分を刺す気だ』、『止めさせろ』。
自分の心がそう訴える前に、俺はシャーペンを持ってるほうの咲羅の腕をおさえる。
「やめろ!」
言おうとしたことがやっと口から出た。
自分でも驚くくらいでかい声が出た。
「お前、そんなことしていいと思ってんのかよ!」
「わからないんだよ! これくらいしか思いつかないの!」
「だとしてもこれだけはやめろ!」
俺が言うと、咲羅は何も言わなくなった。
そして、咲羅が握っているシャーペンが地面に落ちた。
「少しは落ち着いたか?」
「うん……」
俺はため息をついて、咲羅から手を放す。
咲羅の腕に俺が掴んだ跡がくっきりと残ってる。
これも自分では驚くくらい、すごい跡だった。
俺ってこんなに力強いっけ……?
「……って、ごめん! 結構強めに掴んだ! 痛かったよな!」
俺は落ちているシャーペンを拾って咲羅の手に握らせる。
……ハンカチで拭くくらいのことはしてあげてもよかったな……。
「いや……、大丈夫……」
咲羅は目を手で拭う。
だいぶ落ち着いたみたいだ。
「『ストレス発散の方法』って言ってたよな?」
「うん……」
「なんかあるなら話聞くぞ? こんな俺でも役に立つかもしれないし」
……今まで役に立ったことあったっけ?
そもそも相談すらされなかったからな、俺。
「ちょっと、わからなくて……」
「何がわからないんだ?」
「自分がわからないの……。私……、どうすればいいか……」
「……詳しくきいてもいいか?」
「私……、高校行ってから……、変わろうと思ったの……」
また泣き出す咲羅。
だから結構ゆっくり喋る。
でも俺は遮らないで、ゆっくり咲羅の言葉を聞いた。
「性格……、変えたかったの……。みんな……喜んでくれて……、でも私……、前のほうが……よかったの……」
支離滅裂だけど、なんとなく言いたいことはわかった。
咲羅は高校生になってから自分を変えたかった。
だから性格を変えた。
それで、みんな咲羅の新しい性格を気に入った。
でも咲羅はその性格を気に入らなかった。
それで『性格元に戻したらみんなに嫌われる』ってプレッシャーに苦しんでた。
でも、俺がこのことに何か言う権利はないと思う。
これは咲羅のことだ。
俺のことじゃない。
「おーい、木神ー! 早くやるぞー!」
遠くから男子の声が聞こえてくる。
もう俺たちのリレーがくるらしい。
咲羅に話しかけようとした。
でも、その前に咲羅は走ってどこかへ行ってしまった。
俺は仕方なく、男子の声が聞こえてきた方向に行った。
自傷行為してる方へ。
私も一時期自傷行為をしていました。
自分しか信じられなくなって、周りと無理して合わせるのがつらかったときです。
昔の私と同じようになってる方に、特に伝えたい話がこれから出てくることがあります。
そういう方に、そしてそういうことをしようとしてる方に伝わってくれたらいいなぁ……。
……しょせんは中学生が言うことなので……。