第71話 『コイラの法則』?
「姉ちゃん、『コイラの法則』ってなに?」
綱引きが終わって、俺は姉ちゃんのところに行った。
姉ちゃんは文系を選んでる。
だが、姉ちゃんは意外と物理が好き。
いや、大好きらしい。
理系に進んだ人よりも物理が好きかもしれない。
じゃあなんで文系に進んだんだろう……。
「? ごめん、何の法則って言った?」
「『コイラの法則』」
「……そんなのあるの?」
え?
「そんな法則、なかった気がするけど……」
ない?
え、『コイラの法則』ってないの?
「うん、多分ないと思うよ? どういう法則なの?」
「なんか力が発生する場所が同じだと、力が強くなるらしいってやつ」
「……そうなの? 確かに誤差レベルで強くなるかもしれないけど……。そんな大きい差はできないと思うけど?」
……うん、あの女子生徒、嘘ついたな。
じゃあなんで俺に嘘ついた?
「なんかさ、さっき女子にそんなこと言われて……」
「……綱の同じところ掴んだの?」
「ああ」
「天太、すごく騙されてるね」
え?
騙されてる?
俺騙されてるの?
「その子、天太と手をつなぎたかっただけだと思う」
「俺と? なんで俺なんかと手つなぎたいんだ?」
「鏡見てきな? わかると思うよ」
なんで鏡?
鏡見たって、俺の姿しか見えねえじゃねえか。
「ってか、ボロ負けだったね。一瞬で負けてたし」
「しょうがねぇだろ。インドア陰キャに力仕事なんて無理だ」
「頑張ってた?」
「頑張ろうと努力はした」
「へー……。向こうに実璃ちゃんいるし、行ってきな?」
なんで実璃んとこに行かなきゃいけないんだ?
いや、別に『実璃のとこに行きたくない』ってわけじゃないけど。
俺は生徒席にいる実璃のところまで行く。
3年生の競技を見つめてる実璃。
なんか話しかけちゃダメな気がする……。
「――あ、天太さん……」
俺が近づくと実璃は俺に顔を向けた。
なんで俺の存在に気づいた……?
「おう、実璃」
「なんか3年生も負けてしまってますね」
実璃は笑って俺に言う。
なんか無理に笑ってる感じがする。
「次からは本気で勝ちましょうね!」
「お前も勝ちたいのか? 名取に」
「当たり前ですよ! 絶対に勝ちたいです!」
そんなに勝ちたいんだ……。
俺は正直どっちでもいい気がする。
勝っても負けても。
こういう思考だからみんなに嫌われるのかな……?
「次の私たちの競技は『リレー』ですね。走るのは苦手なんですけど……」
「俺も苦手だよ。昔から走るの嫌いなんだよな」
「わかります」
実璃もインドア陰キャだったのかな?
だとしたら、なんか実璃への仲間意識が高まりそう。
俺はそんなことを思いながら、必死に頑張ってる3年生を見た。
無事テストが終わりました! ありがとうございました!