第69話 体育祭、後半
体育祭もやっと後半になった。
そろそろこの地獄の時間が終わる……。
「おーい、早く準備しろよー」
1年生たちがやっているなんかよくわからない競技を見てたら、後ろから海川柚斗が話しかけてくる。
「準備って……、なんの準備だよ?」
「次の競技のやつに決まってんだろ」
次の競技?
なんだっけ?
「綱引きだよ、綱引き。忘れたのか?」
「興味がないから覚えてないだけ。……綱引きって、あの引っ張るやつ?」
「ああ、あの引っ張るやつ」
俺が一番苦手なやつだ。
そんなに力強くないし。
あと綱引きの準備ってなにすんだよ。
「そんな座ってねぇで、早く行くぞ」
「いや、まだ1年生たちの競技終わってないけど……」
「そんなん見てる暇ねぇだろ。去年と同じふうに動けば大丈夫だ」
いや、その『去年』がわからないんだって。
なんでみんな『去年みたいに』とか言うの?
俺は仕方なく立ち上がり、海川柚斗の隣まで行く。
すると海川柚斗が急に小声で言ってきた。
「最近あいつはどうだ?」
あいつ?
名取のことかな?
うん、多分そうだ。
「あれから変なことは起きてねぇな……。誘惑されてから」
「おかしいな……、あいつのことだから、もっと行動してもおかしくねぇんだけど……」
「なんか策でも考えてんじゃね? ま、名取のペースに巻き込まれなければいいだろ」
「ああ、頼む」
海川柚斗はそれだけ言ってどっかに行った。
本当に名取と海川柚斗の関係が気になる……。
ま、知っていいものではないと思うけど。
「あ、天太さん!」
今度は実璃が俺のところまで走ってくる。
めっちゃ息切れしてる。
「やっと見つけた!」
「実璃? どうした?」
「いえ、『頑張ろう』と言いたくて……」
あ、そっか。
「じゃ、頑張ろうな。綱引き」
「はい! 今まで白組、ずっと負けてますもんね!」
え?
そうなの?
ずっと白組、綱引き負けてんの?
じゃあ今回は勝たないとな。
あと実璃、ここで体力使っていいのか?
これから力仕事するんだぞ?
大丈夫かな?
「さ、行きましょう!」
実璃は海川柚斗と同じ方向に行く。
その先には咲羅がいた。
俺には気づいていないみたいで、顔を横に向けている。
……なんか、めっちゃ元気なさそう……。
あんな顔の咲羅、初めて見た……。
「――どうしたんですか?」
気づいたら実璃が俺のところまで戻ってきていた。
俺と咲羅の間に入ってる。
「いや、なんでもない」
俺は実璃の顔を見てそう言って、海川柚斗がいるところまで歩いた。