第64話 次は『大玉転がし』
次、俺たちが出る競技は『大玉転がし』だ。
普通に大きい玉転がすだけ。
なんのためにこの競技をするのかわからない。
ってか、俺の知ってる大玉転がしとは違う。
なんか、一人ずつ大玉を転がす。
大玉を校庭1周して、それが終わったら大玉を次の走者に託す。
それを、2年生全員がやる。
どんだけ時間かかるんだよ……。
「玉転がすって……、お前できるのかよ?」
海川柚斗が振り向いて、俺の顔を見る。
順番が、俺の前が海川柚斗だった。
俺たちは今、校庭のすみのほうで並んでる。
前の方には大玉がある。
「わかんねぇ……」
「走るの、苦手そうな顔してるもんな」
「苦手に決まってんだろ……。インドア陰キャに走れなんて言うなし。……あ、でも転がすだけならいけるかもな……」
「意外とキツイけど?」
いや、いけそうな気がしてきた。
だってこの競技、走るスピードはあんま関係なくね?
それより、『どれくらい素早く大玉を転がせるか』のほうが大事な気がしてきた。
大玉って結構転がすの大変だよな?
それならみんなもそんなに速くは転がせない。
……よし、俺ならいける!
俺はなんでも、ものに慣れるのが早い!
それに、俺も体育祭でいいところくらい見せたい!
俺をただのインドア陰キャだと思ってるやつに、ギャフンと言わせてやる……!
「お前……、顔すごいぞ? 何妄想してんだ?」
……ヤバイ、海川柚斗に顔見られてるんだった……。
もしかして俺、結構変な顔してた……?
「しょうがねぇよ、天太はいろんなこと考えてんだから」
俺の隣にいる総一朗が海川柚斗に言う。
こいつ、俺の隣にいたんだ……。
「マジかよ。こいつ、変なこと考えてなさそうな顔してるけど」
どんな顔だよ、変なこと考えてそうな顔って。
「天太もな、大変なんだよ。義理の妹に恋されて」
は? 総一朗は何を言ってんだ?
「……そっか、こいつも大変なんだな」
海川柚斗はそうつぶやき、前を向いた。
いやいや、俺に義理の妹なんていませんよ!?
なんか誤解されてんだけど!
「総一朗、お前何言って――」
「しっ、なんか先生言ってるぞ」
総一朗が俺の声を遮って、前を見る。
確かに、先生が何か喋ってた。
でも全然聞こえない。
マイク使えよ、先生。
それより総一朗のさっきの話のほうが気になる。
『義理の妹』ってなんだよ。
「――とうとう始まるみたいだな」
突然つぶやく総一朗。
なんでわかんの?
先生が『今から始めます』って言ってたの?
なんで聞こえたの?
聞こえてないの俺だけ?
俺そんな耳悪かったっけ?
「じゃ、せっかくだし本気だすか」
総一朗が指をポキポキしながら言う。
……なんか『本気出したらめっちゃ強い』みたいな感じて言ってるけど、総一朗ってそんなに運動神経よかったっけ?
女子が出てこない……。