第62話 咲羅の作戦
俺と咲羅が会話していたとき、何人も退場になった。
でも、俺はそんなこと気にしてる場合じゃなかった。
今、咲羅が言ったことの方が驚いてる。
「? 聞こえなかった?」
「いや……、お前……マジで言ってんのか……?」
「うん、これしかないし」
さっきの咲羅の言葉を思い出す。
『私が生理で苦しんだふりをすればいい』。
そうすれば、みんな咲羅に注目する。
男は咲羅を変な目で見て、女は咲羅を心配する。
俺はその間、咲羅とは反対側の方にいる。
そして、みんな俺を見てない隙に俺は移動する。
結構無理なことだと思うけど、俺は影が薄いからいける。
「じゃ、天太は向こう側に行っ――」
「無理だ」
咲羅の声を遮って俺は言う。
このとき、先生が振り向いて俺たちを見る。
俺たちの会話は一旦途切れた。
「――なんで?」
先生がまた後ろを向いたとき、咲羅が言う。
「俺が嫌だから」
「なんで嫌なの?」
「お前が傷つくからだよ」
また先生が俺たちを見る。
……もうこの報告しないね。
『先生が俺たちを見る』って報告。
「私が傷つく……?」
「俺が男だからってわかんねぇと思ったか? 俺には姉ちゃんがいるんだよ。生理のことについては、男子の中ではわかってる方だ」
「…………」
「だから無理だ。他の方法でやるぞ」
俺の言葉に咲羅は黙る。
……俺、なんか間違ったこと言った?
なんで黙るの?
なんか喋って?
……! いいこと思いついた!
「なぁ、咲羅。なんでみんな動くかわかるか?」
「生きてるから」
確かにそうだけど!
「そうじゃなくて、なんでみんな先生が見てるときに動くかわかるか? バランスを崩すからだ」
「まぁ、そうだね……」
「じゃあバランスを崩さなければいいんだ」
「それはそうだけど……、バランス崩さない姿勢なんてあるの?」
実はあるんですよ。
インドアの俺だから気づいた姿勢かもしれない。
「咲羅、砂で汚れるかもしれないけどいいか?」
「私は全然……。でも、なにするの?」
「見てろ」
先生が後ろを見てる隙に、俺は地面に横になる。
そして、回転しながら俺は前に進んだ。
これならいつでも止まれる。
そして、絶対に動かない。
「天太……!」
「咲羅、これなら絶対いける。やるか?」
「う、うん……」
咲羅も横になる。
俺と咲羅は横になって回転しながら前に進む。
……なんかすごいな……。
でも、これで俺と咲羅は絶対に勝った。