第60話 1年生たちを眺めてた
結局俺は、砂の上に座ることになった。
咲羅がいなかったら、今頃あの女子生徒たちに囲まれてたんだろうな……。
咲羅……ありがとう……。
「珍しいですね。囲まれないなんて」
台風の目をしている1年生たちを見ていると、後ろから声をかけられる。
実璃の声だ。
振り向くと、実璃が立っていた。
「隣、座っていいですか?」
「ああ、どうぞ」
実璃は微笑みながら俺の隣に座る。
「天太さんなら、もっと人気なイメージがあるんですが」
「さっき咲羅に助けてもらった」
「よかったですね」
「ああ」
「…………」
なにこの空気。
なんかめっちゃ気まずいんだけど。
せめてなんか喋ろ。
「実璃はどの組が勝つと思う?」
「白組ですよ! 天太さんがいますから!」
いやいや、俺がいるから白組が負けるんだよ。
多分この学校で一番運動神経悪いぞ?
あと訊きたかったことがある。
「なぁ、名取って何組かわかるか?」
「赤組です」
「総一朗と一緒か……」
総一朗、なんかかわいそう……。
「たくさん愚痴、言ってましたよ」
実璃に愚痴言うんだ。
なんで俺じゃないんだろう。
ってか総一朗、実璃に愚痴言うくらいの仲だったっけ?
「――あ、終わりましたね」
実璃が突然言う。
それと同時に、笛が響いた。
見た感じ、1位は青組らしい。
2位は白組。
3位は赤組。
「じゃ、次は私たちですね」
「なんの競技なんだ?」
「『だるまさんが転んだ』です」
……?
だるまさんが転んだ?
だるまさんが転んだって、あの動いたらダメなやつ?
あれやるの?
体育祭で?
「どうしたんですか? 固まってますけど」
動かない俺に気づいた実璃。
そりゃ固まるでしょ。
体育祭でだるまさんが転んだやるなんて、初めて聞いたぞ。
「もしかして、だるまさんが転んだ、苦手ですか?」
「いや、めっちゃ得意」
「すごいですね! 私、苦手なんですよね……」
果たして俺は『得意』なのかどうかはわからないけど。
でも毎回最後まで生き残る。
理由は、誰も俺を見てくれないから。
だから動いても、誰も発見してくれない。
最後になって『木神、いたんだ』ってなる。
悲しいよね。
「……そういえばその麦茶、どうしたんですか?」
俺の隣に置いてあるペットボトルを発見した実璃。
さっき咲羅からもらったやつだ。
「さっき咲羅からもらった」
「……よく持ってましたね、咲羅さん」
「だよな」
でも麦茶はマジで美味い。
久しぶりに飲んだ麦茶。
1年以上は飲んでなかった気がする。
「じゃ、行きましょっか」
実璃は歩き出した。