第52話 名取に呼ばれた
「すみません、木神天太さん」
翌日の帰り道、名取が俺に話しかけてきた。
ちょうど咲羅も実璃もいないタイミングだ。
「なんだ?」
「今日、私の家で一緒に勉強しませんか?」
「なんのために?」
「去年の復習ですよ。勉強わかりませんよね? 去年のこと」
『去年』というところを強調してくる名取。
こいつ、去年の俺のことをわかってやがる。
「別にいいよ。家でやる」
「そんなこと言わずに、やりましょうよ。教えてあげますよ?」
「こっちには大学生の姉ちゃんがいるんだ。ああ見えても私立のトップクラスの大学だ。姉ちゃんに教えてもらう」
俺はそう言って名取から顔をそむけて歩き出した。
「木神天太さん!」
叫ぶ名取。
でもなんかおかしい。
普通に叫んだんじゃねぇ。
なんか嫌な予感がする。
俺は仕方なく振り向く。
スマホを俺に向けている名取。
そしてニヤニヤ笑っている。
「私と、勉強しましょうよ」
表情からは考えられない声を出す名取。
ニヤニヤ笑っているのに、それは『心の底から俺と勉強したい』ということが伝わってくる。
演技力、か……。
そしてどう考えても俺を撮ってる。
……なるほど、そういうことか……。
「嫌だ」
「なんでですか? 特に予定ないんですよね? やりましょうよ」
「……これから独り言を言う。お前は反応すんな。……名取はめっちゃモテる。名取に『一緒に勉強したい』って言われて断るやつなんていないだろう。みんなそう言われたいと思う。で、俺が言われた。断ったらみんなに責められるんだろうな、俺。『なんで断るんだ、調子乗るな』、ってな」
……うん、言ってみたかったんだよな、このセリフ。
『今から独り言を言う』ってセリフ。
そのあとにベラベラ言うやつ。
やっぱかっこいいな、これ。
「はい、独り言終わり。じゃ、話そうぜ。それって盗撮とかにならねぇの?」
「盗撮ですか?」
「ああ、学校停学とかにならねぇか」
「停学ですか……。このこと、先生にいうつもりですか?」
「どっちだと思う?」
「言わないと思います。だってそれよりひどいことをしてますからね、アナタが」
……なんで知ってるの?
めっちゃ怖いんだけど。
ストーカー?
怖い怖い。
中学時代から俺のことストーカー?
そんなことされる覚え――あったわ。
今なんて、クラスのほぼ全員の女子にストーカーされそうだわ。
恥ずかし、俺。
「じゃ、行きましょ? そうしないと、アナタの『過去』を言いますよ?」
「本当クズだな、お前。わかった、行ってやる」
マジで最悪な日になりそうだ、今日は。