第30話 咲羅の家へ
「…………」
俺は目の前にある結構大きい家を見上げる。
ここは咲羅の家。
学校が終わり、プリントを届けに来た。
咲羅の家は実璃に教えてもらった。
なんで実璃が知ってるんだろう……。
それはどうでもいい。
俺は覚悟を決めて、インターホンを押す。
この『ピーンポーン』って音、苦手だな……。
『……はい?』
インターホンから女の声がする。
声的に、咲羅の母さんかな……?
「あの、咲羅さんにプリントを届けに来ました。同じ学校の木神天太です」
『……少々お待ち下さい』
しばらくしてから、ドアがゆっくりと開く。
40代後半くらいの女だ。
やっぱり咲羅の母さんっぽい。
「あ、こ、こんにちは!」
俺はとりあえず頭を低くして、挨拶をする。
こういうときって、こういう行動するんだよな……?
『こんにちは』なんて言い慣れないセリフ……。
「こんにちは。咲羅の母です」
女の人は優しい口調で言う。
やっぱり咲羅の母さんだったか……。
俺は頭を上げ、持っている大きい封筒を咲羅の母さんに両手で渡す。
「こちら、プリントです」
「ありがとうございます。咲羅が元気なら、会わせてお礼を言わせたいんだけどね……。具合悪いみたいで、今寝てるんですよ」
「そう……ですか……。お大事に……」
クソ……。
咲羅と話せねぇのか……。
俺は再び咲羅の母さんに頭を下げて、家に帰ろうとする。
俺と咲羅、家が学校と反対の方向にあるんだよな……。
家まで遠く感じる……。
……。……?
あれ? なんかおかしい気がする……。
咲羅って、俺の家の前、通ってたよな……?
『へー、ここが木神の家なんだ』って言われたし。
あの口調からして『登校中、偶然木神天太の家を通った』って感じだよな……?
でも、登校中ならそれはあり得ない。
反対方向にあるから、学校をスルーしなきゃいけない。
しかも、最近俺の家まで一緒に帰ってるし……。
どうなってるんだ……?
今度咲羅に訊いてみよう。
そのとき、俺のスマホが震える。
電話だ。
……また知らない番号からだ……。
まさか……。
「もしもし?」
『もしもし』
やっぱりアイツだ。
ヘリウムガスで声を変えて、俺に『名取に気をつけろ』って忠告したやつ。
『今日、名取真央と口論してたな』
「よくご存知で。ストーカーしてたのか?」
『肯定も否定もしない』
「この間の俺のセリフじゃねぇかよ」
『まぁ、それはどうでもいい。あまり名取真央に近づくなよ。アイツはマジでヤバイ』
「警告どうも」
『また連絡する』
そう言われて電話が切れた。
……変なことになったな……。