第3話 地獄の弁当時間
「木神くんってさ、お母さんにお弁当つくってもらってるの?」
独りで弁当食べようとしたけど、それは無理だった。
女子生徒たちに囲まれてる。
みんなと教室で弁当食ってる。
そこで女子生徒が訊いてきた。
「あ、ああ」
「へー、そうなんだ」
実際、俺の弁当は母さんがつくってくれている。
いつも『忙しい』って言いながら。
優しい母さんだ。
……そういえば母さんって――。
「――明日から家にいないんだ……」
明日から母さんは出張。
父さんは単身赴任でもともと家にいない。
「え!? じゃあ誰がお弁当つくるの!?」
……俺の言葉を見て聞き逃してない……。
「まぁ、コンビニとかで何か買うよ」
「え……、お金ある……?」
いや、そんな貧乏じゃねぇよ。
「……あ! じゃあさ! 私がつくろっか!?」
……はい?
「アレルギーとかある? 好きな食べ物と嫌いな食べ物も!」
待って、頭が追いつかない……。
俺、こいつらに弁当つくってもらうの?
今まで俺のことをバカにしてたやつらに?
うわ、それは嫌だわ……。
だからって『つくんないで』って言うと……あれだし……。
ってか、謝罪とかないのかな?
『今までバカにしてごめん』とか。
まぁ、こいつらはそういうやつらか。
「ただいま」
家に帰った。
今日はめっちゃ疲れた。
「おかえり」
今日は母さんの声。
リビングにはテレビを見ている母さんがいた。
「……あ、明日はお弁当つくってあげられないよ?」
「ああ。出張頑張れよ」
「うん。で、お弁当はどうするの? コンビニとかで買うの?」
「……何も言いたくない……」
俺をバカにしてたやつらの弁当……どんなのだろう……。
『はい、これ!』とか言われて変なの食わされるのかな……?
『実はお前のこと、嫌いなままでした!』とか言われるのかな……?
普通に姉ちゃんにつくってもらいたいんだけど……。
……そもそも姉ちゃんって料理できたっけ……?
「何か買うならお金あげるけど……」
「いや、大丈夫」
俺はため息をつきながら自分の部屋に行った。
「じゃ、行ってくる」
次の日、俺はそう言うけど、誰も返事をしない。
そりゃそっか。
父さんはもともと家にいない、母さんは出張、姉ちゃんは大学。
……いや、ミミがいた。
って、今のミミ寝てるじゃん……。
悲しい思いをしながら俺はドアを開ける。
「? 木神?」
外に出ると、白糸咲羅がいた。
「へー、ここが家なんだー」
はい、ここが私の家です。
白糸咲羅は俺の家をジロジロと見る。
なんなんだろ……この気持ち……。