第25話 寝不足
「おはよー、天太!」
家から出たら、目の前に咲羅がいた。
実璃はいない。
「って、目の下クマあるよ? 寝れなかったの?」
目の下にクマ……?
やっぱり寝不足だったのかな……俺……。
昨日、あの電話が気になりすぎてよく寝れなかった。
アイツは何が伝えたかったのか……。
「今日学校行ける?」
「ああ、全然余裕……」
「顔が余裕そうじゃないって……」
マジか……。
でも学校行かないと勉強できないし……。
そういや大学受験どうしよう……。
今から勉強しても間に合うかな……?
「じゃ、行こ」
咲羅は歩き出す。
……!
感じた!
咲羅の髪の匂い!
花の匂いがする!
すげぇ……めっちゃいい匂い……。
何の花だろう……。
……って、何興奮してんだよ……俺……。
めっちゃヤバイやつじゃねぇかよ……。
「? どうした?」
咲羅は振り返り、俺の顔を見る。
……バレた……? 髪の匂いかいだこと……。
それって結構ヤバイよね……?
どうしよう……なんて言い訳しよう……。
「今日はなんにも言わないんだ」
……へ?
なんにも言わない……?
ここでやっと、俺はあることに気づいた。
咲羅のやつ、俺の手を握ってる……。
「……って、あのな! これやめろって言ってるだろ!」
「なんでよ! 手繋いで何が悪いの!」
「逆になんで怒るんだよ! ってか、なんで『今日はなんにも言わないんだ』とか言ったんだよ! お前があんなこと言わなければ俺、気づかなかったんだからな!」
「だ、だって不思議に思ったから! なんでそこでキレるの!?」
……確かに……。
なんで怒ってるんだろう……。
寝不足だからかな……?
「あ、天太さん!」
後ろから実璃の声。
振り向くと、アイスキャンディーをくわえている実璃がいた。
買い食い……?
別に悪いことだとは思わないけど……。
そして実璃の顔……めっちゃ幸せそうな顔だ……。
アイス大好きなんだろうな……。
「おはようございます!」
「ああ、おはよ……」
「実璃……アンタ、いつも買い食いしてるの?」
「いえ、1週間に3回くらいしか買ってませんよ?」
結構買ってるな……。
いや、陽キャはそのくらいのペースで買い食いするのか……?
陽キャって難しいな……。
「それで、昨日は大丈夫だった?」
「昨日……?」
「あの名取とかいうやつに、電話とかされなかった?」
「電話か……」
一本だけあったな……電話……。
どうしよう……言おっかな……?
言ったら面倒くさそうになるし、別にいっか。
「いや、なんともなかった。じゃ、行くぞ」
俺はできるだけ笑顔をつくり、二人に言った。
とうとう嗅げたか……咲羅の髪の匂い……。