第234話 仮眠
「――タ――天太」
なんか声が聞こえる気がする。
……気のせいかな?
「天太、早く起きて」
今度はハッキリと聞こえた。
なんか首が痛い。
なんでか知らないけど、俺なんかに頭を乗せてるし。
「……朝とか弱いタイプ?」
さっきと同じ声が聞こえる。
この声は……咲羅……?
俺は目を開けると同時に、首の位置をもとに戻す?
『切断された首をくっつける』とかじゃないよ?
寄っかかってたから、それから離れたって意味。
「咲羅……」
「よく寝れた?」
そっか、俺寝てたんだ。
咲羅に肩借りて。
「まぁ……」
「そっか。じゃあ次はちゃんと目、覚まして。寝てたことがバレたら、江島に怒られるでしょ?」
多分怒られるな。
『一度足らず二度も俺の神プレーを見逃したな!』って。
「……わかった……」
「それと、私の肩で寝てたことは内緒だよ?」
「……なんで?」
ダメだ、俺寝ぼけてるのかな?
舌がちゃんと回らないし、思考力落ちてる気がする。
「なっ……! べ、別に言ってもいいけど……天太が変な思いするだけだよ?」
「別に俺はどうなってもいいし」
「天太が変なことされちゃうの! ま、まぁ! 天太がそういう刺激受けて喜ぶんだったら別にいいけど!」
「大丈夫、多分」
「言っちゃダメ!」
ええ……。
今日の咲羅、おかしくない?
そんなことより、総一郎が来る。
試合、勝ったのかな?
……いや、そんなことなさそう。
みんなしょんぼりしてる。
特に総一郎は結構落ち込んでるみたい。
「……負けた感じ?」
「……負けた」
あらら。
ま、俺よりマシだから。
俺、初戦敗退。
慰めに行くか。
俺は立ち上がって総一郎に近づいた。
「お疲れ様」
「…………」
話しかけても無言。
これは相当落ち込んでるな。
今度なんか奢ってあげよ。
「……あのさ……」
「なに?」
「こういうので失敗する男って……恥ずかしいかな?」
「全然恥ずかしくないって」
思ったよりも早く口が動いた。
多分、俺の本心だからだと思う。
「負けることなんかよりも、やる気なさそうにダルっぽくよってるほうがよっぽど恥ずかしいと思うよ?」
「……そうか、お前、ちゃんと観てなかったんだな……」
ヤベ、バレた?
でも今の言葉のどこでそれがわかった?
「仕方ない、柚斗、説明頼む」
「わかった」
気づいたら俺の隣りにいた柚斗が汗を流しながら言う。
……なんか面白いな。
「こいつ、試合中に敵に土下座して頼んだんだよ。『俺がカッコいいこと言って技名シュートするから、その間はなんもしないでくれ』って」
「へー」
「で、思いっきり言ったもんな? 『俺の解き放たれし脚よ! 俺の息吹に合わせ踊り狂え! 行くぞ! スペシャル総一郎のグレートシュート!』ってな」
うん、何言ってるんだこいつは。
「で、結局決まったの?」
「いや、クロスバーに当たって跳ね返った」
「クロスバー?」
「サッカーゴールの上の枠の部分」
「あー、まぁ、ダサいっちゃダサいけど、別にそのくらいなら総一郎は落ち込まないだろ」
「いや、もっとひどいのがある。跳ね返ったボール、俺らのゴールに入った」
「……つまり?」
「オウンゴール。それで1点差で負けた」
……ごめん、総一郎、もうお前は救いようがない。
ってか、味方のキーパー、止めろよ。
一番の裏切り者、そいつ説あるぞ?