第233話 遅れた
今頑張って全力で早歩きしてる。
早歩きってさ……早いんだね。
当たり前か。
俺はそのまま外に向かった。
次は総一郎たちのサッカーの準決勝だ。
さっきはちゃんと見れなかったぶん、今度はちゃんと見たい。
外まで行けたけど、人が多くてよく見えない。
咲羅たちはきっと前のほうにいるからな……。
みんなと一緒に観れないか……。
「――あ、木神くん!」
目の前にいる女子生徒が振り向く。
それを合図に、近くにいた数人の女子生徒も振り向いた。
一斉に振り向くなよ、怖いな。
「なんでこんなところに?」
「まさか、私たちと一緒に観たいから?」
「『私たち』じゃなくて『私』ね?」
「いや、本当は前にいる咲羅たちと一緒に観ようと思ってたけど、ちょっと用事が出来ちゃってて……」
「そういえば放送で呼ばれてたもんね! 表彰されたの?」
「そんなこと俺がされるわけないだろ」
俺、こいつらと話すためにここに来たんじゃないんだけどな……。
まぁ、来るのが遅れた俺が悪いんだし、ここで観るか。
「咲羅ちゃんたちなら前にいるよ? 行きな?」
「……え?」
「私たちはいいから。やっぱ木神くんは最前列で観ないとね」
「……いいのか……?」
「もちろん!」
女子生徒たちは少しどいてくれて、俺が通れるようにしてくれた。
前には座ってる咲羅たちが見えた。
「……ありがと」
「うん! その代わり、今度からもちゃんとお弁当食べてね?」
「わかった!」
……今度からは文句言わずに食べるか、弁当。
俺は咲羅たちのところに向かう。
咲羅の隣が空いてたからそこに座った。
「遅かったね」
顔を動かさないまま咲羅が喋る。
あんまり俺が来たことに驚いてないみたい。
「ちょっとあってな」
「……疲れてるでしょ?」
やっと咲羅が俺に顔を向ける。
そのときに目が合ったけど、咲羅のほうが先にそらした。
「まぁ走ったし……疲れてる」
「日々走ってなさそうだもんね、天太」
はい、日々走ってません。
「寝た方がいいよ? このあと実璃のやつもあるし、体力回復させとかなきゃ」
「いや、寝れないし……」
「隣があるじゃん」
隣?
隣には咲羅しかいないよ?
「肩、使っていいよ?」
「……マジで言ってる?」
「だって眠いんでしょ? そうするしかないじゃん」
もっと別の選択肢あると思うけどな……。
そう思ってたけど、敢えて黙っておいた。
「……じゃ、借りるな」
「うん……」
俺は咲羅の肩に頭を乗せる。
一瞬咲羅がビクッてしたけど、すぐに動かなくなった。
本当に寝れる。
久しぶりに運動するとこんなに疲れるんだ。
日々運動しとくべきだった――。