第227話 質問
「覚えてる? この質問、いつしたのか」
咲羅がさらに近づいてくる。
俺も後ろに下がった。
「お互い、連絡先交換したときだよ。そのときに訊いたの。覚えてるよね?」
「……まぁ……」
「そのとき天太、なんて言ったか覚えてる? 『それは言えない』、私ははっきり覚えてるよ」
俺の背中が教卓に当たる。
だから止まった。
それでも咲羅は近づいてくる。
「でも天太はそれと同じくらい言いにくそうなことを名取には言ってた。そのことを踏まえて、私にあの時の質問、答えてくれる?」
「それは……」
「白糸さん、あれは私が――」
「あんたは黙ってて」
名取の声を遮る咲羅。
その声のせいで名取は黙り込んでしまった。
「今は出てって。天太と二人で話したい」
「……はい……」
名取は力のない声で返事をして、教室から出ていく。
「前も言ったじゃん。私は天太に言いにくいことを相談した。だから天太もそれと同じくらいのことを私にしなきゃいけないの」
「…………」
「言って」
「……言ったらさ……戻るよね……?」
やっと声が出た。
いつもより声が低いことは自分でもわかった。
「あの話から咲羅は俺が昔なにをしてたかわかるよな……? それを改めて俺の口から言うと、お前は……変わるだろ……? そうなるなら――」
「変わらない」
俺の声を遮る咲羅。
「いじめ、してたんだよね? 今までの名取とかの会話から想像できる。それに、湊亜の件だって、誰より必死だった。まるで自分の罪滅ぼしみたいに」
「……わかってんじゃねぇかよ……」
「確かに、いじめは絶対に許されない。なにをしても罪は消えない。でも、そのことをずっと引きずっててもなにも起こらないし、なにも変わらない。でも天太は違う。自分の罪を認めた。その上で湊亜を助けた」
「……お前……いじめられたことあんのかよ……?」
「は……?」
「『いじめられたことがあるのか』って訊いてんだよ!」
俺は声の高さを変えないまま叫ぶ。
これにはさすがに咲羅も黙り込んでしまった。
「どんだけつらいかわかってねぇのか? 人間全部が信じれなくなるんだぞ……? なにをしても自分が否定されて、そこにいるだけでゴミを見るような目で見られる。このつらさ、わかんのか……?」
「それは……」
「わかんねぇよな、そりゃ。そうやって簡単にいじめた側を認めようとするんだから!」
「…………」
「俺は……絶対に――」
「違うよ!」
誰かが俺の声を遮る。
咲羅じゃない。
それどころか、咲羅もその声に驚いてるみたいだ。
声は教室の出入り口のところから聞こえた。
その方向を見ると、そこには湊亜がいた。
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