第223話 湊亜の卓球
卓球は『ダンスルーム』ってとこでやるらしい。
そんなとこ行ったことないけど、みんなについて行ったから着くことができた。
俺たちは湊亜に一番近いところに行った。
ここは地下体育館とかと違って観客席とかないから、目の前で床に座りながら湊亜の試合を観ることができる。
湊亜って卓球できるんだな。
それか、消去法で卓球選んだ可能性もあるな。
俺と同じような醜態を晒さないことを願うよ。
しばらくしてから試合が始まった。
そのときに気づいたけど、湊亜って左利きなんだな。
ラケット左で持ってる。
『右利きだけど左の手を使ってる』って可能性もあるけど。
敵からサーブで、敵が最初に球を打つ。
湊亜は見事にそれを返して点を入れる。
さすが湊亜、すごいな。
いきなり1ポイント入れるなんて。
卓球とかやってたのかな?
「……湊亜、経験者だね」
俺の隣に座ってる咲羅がそうつぶやく。
「動きが全然違うし、返し方も上手かった」
「へー……」
俺はスポーツのこととかあんまり詳しくないからなにも言えない。
こういうときのためにスポーツ観戦するべきだったな。
そこからどんどん湊亜は点数入れてる。
そして敵は1点も入れてない。
湊亜が無双してるだけ。
なんか敵さんがかわいそうになってきた。
「湊亜、意外と卓球得意だったんだな。演劇部じゃなくて卓球部に入ればよかったのに」
「俺が誘ったんだよ」
二つ隣にいる総一郎が俺に言う。
ちなみに俺と総一郎の間に入ってるのは翔琉。
なんでか知らないけど急にここに来た。
俺がバスケやってるときはいなかったのに。
俺の応援はしないで湊亜の応援はするのか。
ま、俺のやつは応援するにも値しないし、ただ恥ずかしいやつ見せるだけだから、いなくてありがたかったけど。
そういえば柚斗も見ないな。
あいつなにやってるんだろ?
今日学校来てるよね?
あいつももっと話しかけてくれれば楽しいのに。
なんか壁があるっていうか、話しかけんなオーラを放ってるっていうか。
それが『本当の自分を表現してる』なら俺も無理に介入はしないけど。
父さんの教え、ちゃんと守ってるよ。
ただ、酔っぱらった父さんは嫌だけど。
「――あ、勝ちましたね」
実璃が言う。
スコアボードを見ると――ってか、卓球にもスコアボードあるんだね――11対1で湊亜の勝ち。
時間の都合上、もう一ゲームはやらないらしい。
「なんで1点取られたんだ?」
「湊亜さんの慈悲だよ」
あー、わざと負けたのか。
それか、『1点だけください』とか言われたのかな?
湊亜が勝ったんだからそれでいっか。
……って、ちゃんと湊亜の試合見れてなかったな。