第220話 バスケ 〜1〜
めちゃくちゃ急な話だけどさ、『相性よくない人』とかっているよね。
自分とは合わない人とか、能力に差がある人とか。
でさ、その合わない人となにかやっても、あんまり楽しくないじゃん?
自分もそうだし、相手もそうだし、それを見てるみんなも。
バスケとかさ、平均身長140センチの初心者小学生と、平均身長190センチはあるプロのバスケ選手を本気で戦わせてもあんまり面白くないじゃん、きっと。
……今その状況なんだよね。
相手チーム、みんな身長高いし、全員小学生のころからバスケやってたらしい。
趣味でバスケやるとかじゃなくて、ガチでやってるらしい。
もうダメじゃん。
うちのチーム、みんなバスケ未経験者だし。
なんで俺たちとこの人たちを戦わせようと思った?
ま、俺がいる時点で、どのチームと戦っても負けは確定してるけど。
「木神、絶対に諦めるな」
隣にいるモヒカンが俺に顔を向けないまま言う。
「俺たち……ってか、俺なら絶対に勝てる」
……なに言ってるんだ、こいつは。
キミ単体が勝っても意味がないんだよ。
俺は端っこにいよ。
下手に攻めても失敗するだけだし。
でも端っこにいてもなー……。
『木神、お前やる気あった?』って責められちゃうし。
そうだ、やってる風にしよう。
そうすれば――
「――木神! 前行け!」
モヒカンの声で、現実に戻る。
横に並んでたはずのみんなが散らばってる。
……なんでみんな並んでないの?
最初に挨拶しないの?
挨拶は大事って小学校の校長が言ってたよ?
……いや、これってさ……もう始まってる……?
いやいやいや、早くない!?
心の準備というものがあるじゃん!
俺がボーッとしてる間にスタートしたのか……。
ヤバい、やってる風にやらなきゃ。
実璃は確か『パスすればいい』って言ってな。
よし、パスしよう。
……ボールがないとパスできないじゃん。
じゃあなんもしなくていっか。
いや、でも咲羅がなんか言ってたな。
『妨害すればいい』だった気がする。
無理無理、妨害なんてできない。
俺はどうすれば――
「――木神!」
後ろから声が聞こえる。
振り向くと、モヒカンがボールを俺に投げてた。
反射的に、それをキャッチしちゃう。
俺にボールを渡すな!
これじゃ敵の皆さんが来ちゃうよ!
予想通り、敵さんがいっぱいいらっしゃる。
え、どうすればいいの?
……ええい、もういいや!
ゴールに向かって投げちゃおう!
そうすれば実璃の言ってた『りばうんど』ってやつを誰かがやってくれる!
俺は全力でボールを投げる。
ただ、そのときに気づいた。
ゴールまで遠すぎる。
多分、ボールが外に出ちゃう。
外に出たら相手ボールだよね……?
ヤバい、投げなきゃよかった。
そう思ってたけど、ちゃんとボールは届いた。
ボールが綺麗にゴールに入る。
……え? 入った?
この距離から投げて入った?
え、物理法則ちゃんとはたらいてないって。
ってか、俺が入れたの?
「木神! ナイス! 次も頼む!」
モヒカンが俺のところまで来て、俺の肩を叩く。
こんな奇跡、もう起こりませんよ。