表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/258

第218話 球技大会、当日

 球技大会当日になった。

 みんな楽しそうだけど、俺は全然そう思えない。


 まず一つ、運動が嫌いだから。

 体育祭とかそういう系本当に無理。


 そして、今日を楽しめそうにないのは、昨日名取から聞いた話のせいでもあった。


 『萩浦燕沙』。

 俺が絶対に忘れられない名前だ。


 そこから聞いた話は、さらに予想外のものだった。


 『その人のお友達が、燕沙さんをいじめた人を本気でさがしてるみたいですよ』。

 名取は確かにそう言った。

 なぜそんなことしてるかは名取もわからなかったし、その情報をどこで入手したのかも教えてもらえなかった。


 でも名取が嘘をついてるようには思えない。


 『気をつけてくださいね。そのうちの一人に、暴力でしか解決できない人がいるらしいので』。

 続けて名取はそう言った。

 一番伝えたかったのはこれらしい。


 そのことのせいで、気分が上がらない。

 別に、燕沙の友達に見つかって殴られたり蹴られたりするのが怖いんじゃない。

 俺がまた、燕沙の前に姿を現すのが怖かった。


 燕沙の友達は、俺を見つけたら間違いなく燕沙の前に俺を連れて行くだろう。

 そしたら、俺は燕沙とまた顔を合わせなきゃいけなくなる。


 それのせいで、燕沙は俺の存在を思い出してしまう。

 あいつにとって俺はトラウマに違いないのに。


 それに、俺もあいつと会いたくはない。

 あいつのトラウマを思い出させることが嫌なのもそうだし、俺自身、罪悪感に耐えられる自信がない。

 ……いじめたくせに『罪悪感』とか、最悪だな、俺。


 あいつはそのまま――


 「――きーがみせーんぱい! 元気ですかー?」


 誰かが後ろから抱きついてくる。

 こんなことするの、あいつしかいない。


 首だけ少し後ろに回して、誰が抱きついてきたかを見る。

 予想通り、言音だった。


 今の言音はジャージ姿だ。

 ま、もう全校生徒ジャージだけど。


 「言音……」

 「あれ? 元気ないですよ? あ、もしかして朝ごはん抜いてきました? ダメですよ? 思いっきり運動する日は思いっきり食べなきゃ!」


 満面の笑みを浮かべて言音が言う。


 ……そうだな、今は元気にならなきゃな。

 逆にみんなを心配させちゃう。


 できるだけこの問題は俺と名取――まぁ、名取もあんまり関わらせたくないけど、それだけで済ませたい。

 あのことは黙っておこう。


 「木神先輩、バスケ出るんですよね!? 応援してます!」

 「……それより言音、お前余計なことしたか?」

 「……余計なこと?」

 「この『球技大会』をつくったの、お前?」

 「まさかぁー! 野尻先輩じゃないんですか?」

 「そんなこと部室で話し合ったっけ?」

 「先輩が勝手に決めたんじゃないんですかね? 野尻先輩ならやりかねません」

 「本当に嫌なんだけど」

 「大丈夫です! 木神先輩のこと、全力で応援します! 屋上から木神先輩の顔写真を印刷したプリント、配りまくります!」

 「やめてくれるかな? 目立ちたくないんだけど」

 「アハハハ! 私はいいと思いますよ!?」


 まったく、言音はいつも通り元気だな。

 ……この元気のおかげで、俺もなんとか笑えそうだよ。

 いつもありがとな、言音。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ