第20話 名取真央
「……ねぇ……、本当に大丈夫……?」
「あの……、保健室に行ったほうが……」
咲羅と実璃は俺の顔をのぞきながら言う。
そして俺はめっちゃ苦しかった。
だって……弁当9人分食べたんだよ……?
頑張った……!
ちなみに咲羅と実璃以外の女子生徒は、俺が弁当を食い終わった瞬間にどっか行った。
初めてだよ……、こんな量の弁当食べたの……。
「……あの、すみません」
誰かが後ろから俺に話しかける。
女の声だ。
振り向くと、そこには見知らぬ女子生徒がいた。
なんか『お嬢様』って感じがする。
声まで『お嬢様』って感じだったし。
「あなた、木神天太さんですか?」
「まあ……、そうですけど……」
なんで俺の名前知ってるんだ……?
「私は名取真央です。よろしくお願いします」
「はぁ……」
「……で、何がしたいの?」
咲羅が俺の前に出て、強い口調で名取とかいう女子生徒に言う。
「そうですよ、変な方法で天太さんに変なものつけて」
実璃は俺のズボンの後ろのポケットに手を入れる。
突然のことすぎて、俺は動くことができなかった。
実璃が俺のポケットから、小さい板のような物を出す。
灰色のウエハースみたい。
「これ、録音機ですか? 変なの持ってますね」
実璃はウエハースみたいなやつを空中に軽く投げる。
それは一回転して、実璃の手に戻る。
……かっこいい……。
「あら? バレてましたか。鶴崎さんってボーッとしてるイメージがあったので、びっくりです」
名取はニヤリと笑い、実璃を見る。
気がつけば、周りには数人の生徒が集まっている。
「……『ボーッとしてる』か……。そういうイメージだったんですね、私って」
「はい、ボーッとしてると思いますよ。白糸さんはガンガンうるさいイメージですね……。飲食店でクレームいれてそう」
「へー、私クレームいれたことなんてないけどね」
……なんだこの女……。
人のことバカにしてないか……?
「天太さん、私のこと知ってますか?」
名取が俺に話しかける。
知ってるわけねぇだろ。
「知らない」
「本当ですか? 一応『学校一告白された回数が多い女子生徒』って称号があるんですけど」
学校一告白された回数が多い……?
それって咲羅じゃないのか……?
「白糸さんは確か……、80回程度でしょうか。私は100回ですけど」
「あなた、勘違いしてませんか?」
実璃が俺の前に出て名取に言う。
「『告白された数』イコール『モテ度』じゃないですからね?」
「なんでそうなるんですか? 100回告白された人と、1回も告白されたことのない人、どちらがモテるかと言ったら前者に決まってるでしょ」
名取はわざとらしくため息をつき、俺に人差し指を向けた。
「さきほど、『何が目的か』と訊かれましたね――」
「――私の目的は、木神天太さんと結婚を前提にお付き合いすることです」
※咲羅と実璃は一般的な女子高生です。