第2話 マスクとサングラス、外して
顔……?
マスクとサングラス……?
いや学校で外すわけないじゃ――いや! 確かにさっき外してた!
ヤバい! 素顔と地声聞かれた!
どうしよう……この状況……。
言い訳……言い訳……。
「か、顔でブか……? ボクの顔を見ても何の意味もないでブよー? ボクはとてつもなくブサイクでブよー?」
よし、完璧な演技力……!
実は俺、結構演技力あるんだよね。
「絶対嘘じゃん……。……じゃあさっきの声出して! 『なぁ! お前ら!』って言ったときの」
ん? なんで嘘ってバレた?
こいつら、俺の演技を見破るとはただ者じゃない……!
いや、それよりヤバい……、どうしよう……。
「あ、あれはイケボを出しただけだブー……。もうノドが痛くて出せないブー!」
よし、これで言い訳は完璧だ……。
そのとき、誰かが俺のポケットからスマホをとる。
いつも俺をバカにする男子生徒だ……。
なんで急に俺のスマホなんかとるの……?
しかもなんで俺のポケットにスマホあるって知ってるの……?
それより、絶対に見られたくないものがそこにある。
……なんかかっこいい感じに言ったけど、ただ壁紙がミミなだけ。
いやさ、いつでもミミ見たいじゃん?
今はミミが寝てるやつなんだよね。
……って、そんなことどうでもいいんだ。
こいつらにミミの存在を知られちゃったら、ミミまでバカにされるかも。
それだけは許さない。
「あ、バカ! 返せ!」
俺は立ち上がり、男子生徒の手からスマホを奪う。
男子生徒は俺を睨んだあと、俺に殴りかかる。
俺は咄嗟に手を前に出し、男子生徒の拳を止める。
すげぇ……俺、強い……。
そう思ってたら、男子生徒が俺を押す。
肘を強く打って、倒れる。
ヤバい……、腕が痛い……。
「ちょっ! 木神くん!? 大丈夫!?」
さっきの女子生徒が俺の肩を掴む。
「大丈夫……だ……、多分……」
……どうしよう……痛すぎていつものキモい声が出ない……。
俺は女子生徒たちに起き上がらせてもらう。
マジで痛い……。
「肘が痛いの!? じゃあ保健室!」
……こいつら……態度変わりすぎじゃない……?
今初めてこいつらに『木神』って言われたかも……。
「うーん……骨には異常ないみたいだね……。一応包帯巻いとくね」
保健室の先生が俺の腕に包帯を巻く。
その後ろでは、さっきの女子生徒たちが心配そうな顔で俺を見ている。
マジで態度変わりすぎだな……。
人間ってこんなに変われるのか……。
ってか、包帯巻くんだ……。
「ねぇ、木神くんっていつもどこでお弁当食べてるの?」
昼休みになった。
いつも通り独りで弁当食おうとしたら女子生徒たちがついてくる。
さっきより数が多い。
ちなみに、今俺はマスクとサングラスをかけていない。
女子生徒たちに没収された。
『もう顔と声隠さないで!』って怒られた。
それでどんどん女子生徒たちが集まってきた。
迷惑だな……。
「なんだ、有名人がいると思ったら、木神じゃん」
後ろから女子生徒の声。
この声……。
俺は振り返る。
そこには、白糸咲羅がいた。
白糸咲羅は学校の中でもモテる方で、この学校の中だけで80人以上の男子生徒に告白されたらしい。
その告白、全部断ったらしいけど。
それと80回ってすごくない?
「あ! 咲羅も木神くんの声、聴きなよ!」
え、何言ってるの?
いやだよ。
「声……?」
「うん! すっごいイケボだよ!」
「へー……」
白糸咲羅は俺を細い目で見る。
何されるんだろう……。
「ま、機会があったら」
白糸咲羅はそう言い残し、俺の前を歩いていった。
機会があったら地声聴かれるの……?