第196話 シャワー浴びよう
「……本当に人いないな」
最初に出た言葉がそれだった。
いつもは混んでそうなサウナも、見た感じ誰もいない。
そりゃそっか、今日定休日だもん。
それでもお湯はちゃんと出てる。
温泉って定休日でもお湯出しっぱなしなのかな?
「天太ー、先シャワー浴びるだろ?」
「ま、まぁ……髪まで海に浸かっちゃったし……」
「いや、海とか行ってなくても温泉入る前にシャワー浴びろよ」
「フッフッフ……、わかってないなー、柚斗。シャワー以外でも、かけ湯とかでもいいんだぜ!」
総一朗も言うのか、『フッフッフ』って。
そういえば前に言音も言ってたよね?
似てるな、この二人。
確かにかけ湯でも大丈夫なのか。
俺はいつもシャワーで身体とか髪とか洗ってから温泉に入ってるけど。
……ヤバい、嫌なこと思い出しちゃった。
姉ちゃんと母さんと3人でよく温泉行ってたときのことなんだけどさ。
父さん単身赴任でいないじゃん?
だからさ、男は俺一人、女は姉ちゃんと母さんの二人なの。
だからさ、男湯に入るの俺一人なの。
これが寂しくて仕方なかったな。
いや、別にちょっとなら我慢できるよ?
ただね、姉ちゃんと母さん、長風呂なんだよ。
温泉2時間くらい入ってるからね?
よくのぼせないよね。
俺もさ、外で一人で待つの嫌だから二人が出てきそうな時間まで温泉入ってるの。
サウナとか水風呂とか外気浴で時間潰して。
あのとき思ったね、『俺、なにやってんだろ』って。
……あー、もう思い出すのやめよ。
精神的に苦しくなってきた。
「……江島、お前かけ湯派なのか?」
「いや、シャワー派」
「……そっか」
なんなんだよ、この会話。
もっと楽しく会話しようよ、せっかく友達と温泉来たんだから。
そう思っても、俺はなんか面白い話思いつかなかったから黙ってシャワーを浴びることにした。
ここの温泉、リンスインシャンプータイプか。
……言ってる意味わかる?
あれ、シャンプーとコンディショナーで分かれてるところと、リンスインシャンプーのところあるじゃん?
……そういうこと。
「天太ー、どっから洗う? 髪と身体」
「あー、結構分かれるよね。俺は髪からだけど」
「あ、敵だ。喰らえ! 『スペシャル総一朗水鉄砲』!」
突然総一朗がシャワーを俺に向けて水をかけてくる。
死ぬほど冷たい。
「なっ、なにするんだよ!」
「だって敵だ……うわっ!」
今度は総一朗に水がかかる。
水をかけたのは俺じゃなくて柚斗。
「柚斗! なにするの!?」
「俺は髪から洗う派。だからお前は敵」
「だからってやっていいことと悪いことがあるだろ!」
いや、お前が言うな。
あと柚斗、ナイス。