第194話 麻痺してる
「天太、感じる?」
「うん、ちょっと感じるようになった……」
海から出て――っか、出されて数分が経った。
姉ちゃんに助けてもらった。
今は更衣室のちょっとだけあったかい場所で横になってる。
周りにはみんながいて、心配そうな目で俺のことを見てくれてる。
……いや、総一朗と柚斗は違う。
総一朗は『あー、俺は長い間海に入らなくてよかった』って顔してて、柚斗は『バカじゃないの?』って顔してる。
俺だって本当は海に入るつもりはなかったよ。
それで説明忘れてたけど、今はだいぶ感覚が戻ってきた。
さっきは麻痺してるみたいになにも感じなかったからな……。
「姉ちゃん……俺治るかな……?」
「治ると思うよ? でも、このあとすんごい痛みがくると思うけど」
「え、痛いの!?」
「そりゃあんな長い間冷たい海に浸かってたんだからね」
「嫌だ! 痛いの怖い!」
「木神先輩……かっこ悪いです……」
いや、痛いの嫌でしょ!?
俺は嫌だよ!?
「わ、私の上着でよければなんだけど……、かける?」
湊亜が上着を脱ぐ。
「ダ、ダメだよ湊亜さん! 天太にそんなことしたらヤバいって! 天太、下心しかないから!」
下心しかないのはどっちだよ。
お前湊亜の水着見たくて海に来たんだろ?
「とにかく、海には入らないほうがいいみたいですね。こんな真冬に冷たいのは合いませんよ」
「実璃、あんたね……。この前学校帰りにアイス買食いしてたでしょ?」
「アイスは別です。……そうだ、アイス食べますか? アイス食べたら治りますよ? きっと」
「悪化するでしょ。天太を海に入れたのは私だけど」
「そうですよ、白糸さんが変なことしたからですよ」
「はぁ? 私が悪いみたいじゃん」
「今回は白糸さんが悪いですよ」
「確かに私が悪いけどさ」
なんかケンカになりそうじゃない?
多分その原因、俺だよね?
止めなきゃ。
「二人とも……俺は大丈夫だから……。ほら、見ての通りぴんぴん……」
「全然ぴんぴんじゃないと思いますけどね……」
「本当に大丈夫……、インドア陰キャなめるなよ……?」
「インドア陰キャなんだから大丈夫じゃないんじゃない?」
「二人とも……変なところツッコまないでよ……」
でもマジで早く元気にならなきゃな。
こんなに心配させてるし。
……? あれ? おかしいな……。
全身に痛みが走ってきたよ?
ちょっとずつその痛みが大きくなってる……。
待って、もしかして麻痺が治った?
ってことはとんでもない痛みが……!
嫌だ! 痛いの嫌い!
注射とか採血より怖い!
じわじわ恐怖と痛みが来るよ!