第185話 昨日なにがあった? 〜翔琉〜
「せんぱーい! 連れてきましたよ!」
昼休み、椅子に座って弁当10人前を食べる覚悟を決めてたら、俺の机のところまで言音が来る。
「連れてきた? なにを?」
「『誰を?』じゃなくて『なにを?』なんですね……。まぁ、それはいいです! 廊下にいるので、ぜひ行ってみてください!」
廊下?
言音が連れてくるような人って誰だろう?
言音と仲がいい人か……。
どういう人か推測しながら言音と廊下まで行ってみる。
そしたらあらびっくり、翔琉がいるではありませんか。
「翔琉? なんでここに?」
「オイラだってなんでここに連れて来られたかわからないよ」
ええ……。
言音のやつ、目的も言わないでここまで連れてきたのか……。
「ほら! 昨日のことを木神先輩に教えてあげて! どうせ海川先輩、話してなさそうだし!」
ああ、昨日のやつか。
確かに柚斗は教えてくれなかったな。
俺もちょうど翔琉から聞こうとしたし、言音にお礼言わなきゃな。
「昨日のことって……、ただオイラはこの学校のやつらに失望しただけだ」
んー、なんで?
え、失望したの?
「ちょっと翔琉、それじゃ木神先輩にきちんと伝わらないでしょ? なんで失望したの?」
「なんでオイラがそこまで言わなきゃいけないんだ? 言音が教えればいいだろ」
「いやー、私って説得力ないじゃん? だから無理なの」
「それもそうだな」
いやいや、そんなことないよ?
意外と説得力あると思うよ、言音。
「……みんなが木神天太を悪く言ってたからそれを注意したんだ」
「注意?」
「先輩、これです」
言音がポケットからスマホを出して、画面を俺に見せる。
そして画面を1回だけタップする。
そしたら動画が流れた。
柚斗と翔琉が映ってる。
それと、なんかいっぱい女子生徒も。
『お前らさ、いい加減にしろよ』
柚斗がみんなに言ってる。
『急に天太天太うっさくなりやがってよ。しかも気持ち悪いくらいベタベタしてたじゃねぇか。それなのになんだ? 急にあいつのこと嫌いになった? 意味わかんねぇよ』
『なにがあったのかは言音から聞いた。それで、みんなはただ見たものを信じただけか』
翔琉もなんか言ってる。
こいつ、先輩である2年生にタメ口で大丈夫か……?
「――と、こんな感じです!」
動画の中で翔琉が言い終わったタイミングで、言音は動画を止めてスマホをポケットに戻す。
「どうですか? 翔琉、珍しくかっこよかったですよね!」
「珍しくって……。まぁ、かっこよかったと思う。ありがとな、翔琉」
「じゃ、オイラは帰るぞ。もう少しで霊が出てきそうだったんだ」
そっか、もう少しで霊が――
って、霊!?
え、翔琉のやつ、霊を呼べるの!?
驚いてる俺を無視して、翔琉はそのまま歩いていく。
……どういう気持ちなんだろ、今の俺って。
誰もが思ったでしょう、『いや、言音がそのときなにがあったのか動画で撮ってるならそれを最初から見せろよ。そのほうが早いだろ』。
実は……書いてる途中で作者も思いました。