第175話 やっぱり俺は――!
「……落ち着いたか?」
「うん……」
3分くらい経ったあと、咲羅がだいぶ静かになったからそう言った。
俺が咲羅をはなすと、咲羅も俺の胸から離れる。
「私も……ごめんね……。痛かったよね……」
咲羅は手で俺の左頬を包むように触る。
「いや……、大丈夫……」
「でも……私の気持ちもわかってほしいよ……。私も……、自分のこと傷つけてたから……こんなこと言う資格ないと思うけど……」
「いや、そんなことない。咲羅のおかげでやっとわかった。本当にありがとう」
「……うん!」
咲羅は目にたまってる涙を拭って笑う。
それで俺も笑った。
「やっぱ俺は『本当の自分』を表現する!」
俺はなるべく元気にそう言って、ピアスを外す。
そしてそれをポケットにしまった。
その次に整えてた髪をグシャグシャにする。
……ちなみに、髪がグシャグシャだった時期はほんの最初だけ。
俺の素顔がバレたらある程度は整えてた。
「うん、それが天太っぽい!」
「ああ! そうだな! 俺もこれがいい!」
俺はここで立ってることができなくて走った。
咲羅も走って俺についてきてくれた。
俺たちは河辺まで来た。
体力がないはずの俺が、よくここまで走ってこれたな。
でも今はそんなことどうでもいい。
「どうした? なんかある?」
「なんもないよ。ただ走りたかっただけ。あとお前とここに来たかった」
「……そっか」
咲羅のその言葉が終わると、しばらく沈黙になった。
ただ、ここから見える景色を眺めてるだけだった。
それでもいい。
むしろ、今はこうしてたい。
やっぱ、広いな……。
もっと知らなきゃいけないこともいっぱいある。
こんなときに、人生失敗なんかしてやるかよ。
「……ありがとな、咲羅。もう大丈夫だ。帰ろうぜ」
「いいの?」
「ああ。もう充分感じることは感じた」
「うん、わかった。でもちょっとそこで止まってて」
止まる?
俺は咲羅の言われた通りに動きを止めた。
そしたら咲羅が俺に近づいてきた。
本当に近い。
そして俺の顔に、咲羅の顔を近づけてきて――。
――本当に一瞬のことだったからなにがなんだかわかんなかった。
「これ、ビンタのお詫びね!」
咲羅は元気に、そして恥ずかしそうに言った。
ちょっと顔が赤くなってる。
咲羅は俺に背中を見せてすぐに走って帰っていった。
あの一瞬でなにがどうなったか、今わかった。
俺と咲羅の唇が重なった――キスしてた。
連載開始してから1年2ヶ月くらいでやっとキスシーン……。