第171話 見られてた
「き、木神くん……」
女子生徒の一人が言う。
苦笑してるわけでもなく、無表情だった。
苦笑すらできないよな。
名取も疲れ切って倒れたままだった。
「な、なにしてるの……?」
「……ハハ……ハハハハハハ……!」
俺はなんでかはわからないけど、笑っていた。
心底おかしいわけでもないのに、声に出して笑っていた。
その理由は俺にもわからない。
しばらく、俺以外のみんなが黙っていた。
俺の笑い声だけが聞こえる。
しばらくしてから、俺も落ち着いてきた。
やっと笑わなくなった。
「……ちょっと……、考え直させて」
さっきの女子生徒が言う。
そしたら、そいつらはみんな逃げるように俺から離れていった。
ただ、咲羅と実璃、湊亜と言音は残ってる。
俺は立ち上がって、その4人を見る。
「みんな……、見てたよな……」
自分でも驚くくらい力の抜けた声だった。
そのときに気づいたけど、名取も立ち上がってた。
「天太……? なにしてたの……?」
声を震わせながら咲羅が訊く。
「……見てただろ? それが全部だ」
「ねぇ……、どういうこと……? 説明してよ……」
「だから、あれが全部だ。わかる――」
「わからないよ!」
俺の声を遮って、咲羅が叫ぶ。
他の3人は、俺を恐れてるみたいな目で見てる。
「ねぇ、なんであんなことしたの! 意味わかんないよ!」
「…………」
「そんなことしていいと思ってんの? いくら名取が気に入らないからって、そんなことしていいわけないじゃん! なにが楽しくてそんなこと――」
「俺だってやりたくなかったよ!」
今度は俺が咲羅の声を遮って叫ぶ。
「じゃあなんで!」
「仕方なかったんだよ! 俺にはこの方法しか思いつかなかった! それに、もう作戦を開始してたから後戻りできなかった! 俺だってこんなことやりたくなかったよ!」
「は、はぁ? 意味わかんないんだけど!」
「そうだよな! 理解できねぇよな! ストレス発散方法がリストカットするしか思いつかないやつなんかに!」
俺がそう言うと、咲羅は一瞬だけ表情を変える。
ここになって、俺は自分が言いすぎたってことに気づいた。
でも、ここから謝る気にはなれない。
「……信じてたのに……」
咲羅はそう言って俺に背中を向けて走っていった。
言音はすぐに咲羅のあとを追いかけて、実璃は俺をしばらく見てから咲羅のを追いかけた。
湊亜は俺をただ見つめている。
「……名取、悪かった。つらかっただろ?」
「私は大丈夫です。それより天太くんが……」
「俺はもうあれでいいんだ。覚悟は決めてたし。……学校……、行こうぜ……」
俺は頑張って声を出して、学校に向かった。
いつも通り、作者に定期テストが迫ってきているので投稿を1〜2週間お休みさせていただきます。また、12月の終盤になっても投稿が再開しない場合、作者の点数が笑えないことになっていると思ってください。ご協力よろしくお願いします。