第169話 久しぶりだな
「よ、久しぶりだな」
俺が言うと、3人の男はさらに混乱したみたいな表情を浮かべる。
こっからが大事だ……、頑張れ、俺。
俺が喋っても、3人は『は?』って顔してる。
「もしかして忘れた? 俺のこと。覚えててほしかったのにな」
俺はそう言いながらさらに3人に近づく。
「湊亜から聞いたんだけど、あいつ、転校するときにだいぶ見た目変えたらしいな。いわゆるイメチェンってやつ。イメチェンした湊亜はすぐに気づいて、俺は気づかないのか。ま、俺とお前らはあのとき初めて会ったから『俺への観察が足りなかった』って理由なんだと思うけど」
そこまで言うと、3人のうちの一人のやつ――真ん中にいるやつがなにかに気づいたかのような表情になる。
「覚えてるか? 初めて会ったのは学園祭のときだったけど」
俺がさらにそう言葉をつけると、残りの二人も気づいたみたいだ。
こいつらのことだから、すぐにその表情を隠して強がるかと思ってたけどまだ表情を変えてない。
……そんな驚くことか?
いや、驚いてもらわないと困るか。
「お前ら、いじめしてたみたいだな」
俺はできるだけ静かにそう言う。
俺から見て一番左にいるやつは震え始めた。
こっからさらに震えてもらうことになるのは、俺と総一郎、それと名取しか知らない。
さてと、次の工程にいくか。
こっから大変だけど。
俺はニコって笑って、真ん中のやつの方に腕をかける。
「おいおい、なめてんのか? やるならもっと大胆にいけよな」
できるだけ陽気な声で言う。
もちろん、俺はこんなこと思っていない。
これも作戦のうちだ。
いじめなんて絶対にダメだ。
正直、この言葉を言うのが一番勇気がいる。
声が震えないか、声が小さくならないか、そして俺自身がきちんとその言葉を言えるかが今回の作戦の難点だった。
もう難しいところは終わった。
あとは名取に期待するしかない――。
『……これ、本当にやるんですか?』
俺が名取に作戦を教えた日の夜、名取から電話がかかってきて最初の言葉がそれだった。
「ああ、できるか?」
『天太くん、あんなこと言えるんですか? 天太くんはいじめは絶対許せない人ですよね?』
「ああ。だからやるんだよ。もうこれ以上湊亜を苦しめないために」
『夜泉さんのため、ですか……』
「俺にはそれしか言えないからな。『全世界のいじめをなくす』なんてできない。そもそもいじめは絶対に消えない。表面ではなくなってるように見えても、裏ではずっと存在してる」
『そうですね……』
「で、できるか? アクションシーンが主だけど」
『できます』
「ありがとな」
『私は天太くんをたくさん苦しめた、だから助けるのは当然です。絶対に夜泉さんを助けましょうね』
「ああ」
俺はそう言って電話を切った――。
「あ、天太くん!」
後から名取の声が聞こえる。
こっからが本番だ。
このシーンを誰かに見られたら終わる。
最悪、学校退学になるかも。
でもいいんだ。
自分がやりたいことをする。
『本当の俺』を表現するんだ――。