第167話 我慢なんてするな
「えっと、天太くん……。どうしたの……?」
「え、な、なにがー?」
「なにか隠してるでしょ?」
なっ、なんでわかるんだ……!
さすが湊亜……、そう簡単にはいかないか……!
「この道、天太くんはわかってるでしょ?」
「……どういう意味だ?」
これは演技とかじゃなくて、本気で思ってることだった。
「ここ、『あの人たち』がいるところだよね。毎日いるから疲れるよ」
「湊亜……」
「多分だけど、私のためになにかしてくれてるんだよね。昨日からそんな予感はしてたよ。天太くんが急に目立つようになったのもおかしいし。さすがにその考えは自意識過剰かな?」
「…………」
「ありがとう、すっごく嬉しいよ。でも天太くんを巻き込むわけにはいかない。私一人が我慢すればいいだけだから大丈夫だよ」
湊亜はそう言って俺の横を通り過ぎようとする。
こいつ一人で『あいつら』のところに行くつもりだ。
俺は咄嗟に湊亜の前に立つ。
そして抱き着いた。
自分でもなんでこんな行動してるかわからない。
湊亜も驚いてるけど、俺自身も驚いてる。
「湊亜、我慢なんかするな」
驚いてるわりには、しっかりした声が出た。
「それは我慢しちゃいけないことだ。誰かに頼るべきことなんだ」
「あま……た……くん……?」
「今までつらかったよな。たとえ今、もういじめられたないとしても、つらいよな。一度でもあんな経験すると、もう忘れられないよな。全部わかる」
俺がその言葉を言い終えると同時に、湊亜も俺を抱く。
小刻みに湊亜の動きが揺れてるのもわかった。
「自分一人でため込むな。全部吐き出して、助けを求めろ」
「じゃ……じゃあさ……、言うよ……?」
震えてて、小さい声で湊亜が言う。
湊亜が泣いてることはもうわかってた。
「つらいよ……! 思い出したくないのに……、忘れたいのに……! なのに! なのにできないよ……! 天太くん……、助けてよ……!」
「……よく言った」
俺は湊亜を強く抱く。
「あとは俺に任せてほしい。絶対に助けてやるから」
俺はそう言って、湊亜から離れる。
そして総一朗が向かった方向に歩き出した。
……湊亜のあんな顔見たら、絶対に成功させるしかないな。
そのためになんでも捨てる覚悟で計画したんだ。
ただ、次で俺の全てが変わるかもしれない。
そうだ、全てを捨てるんだ。
だから湊亜を助けなきゃ――。