第163話 みんな驚いてる?
「天太ー、みんな来たよー!」
下の階から聞こえる姉ちゃんの声。
……よし、もう準備はできた。
俺は鏡を見ないまま部屋から出て、階段を降りる。
「朝ごはん学校で食べる? おにぎりあるけ――」
居間にいる姉ちゃんが俺を見る。
その瞬間に、姉ちゃんは持ってるコップを落とした。
プラスチック製だから割れてない。
それよりめっちゃ驚いてる表情してる。
「あま……た……?」
「ああ、朝飯は大丈夫。じゃ、行ってくる」
それだけ言って俺は玄関に向かう。
そのときにミミと会ったけど、ミミも俺を見て驚いてる。
「……ミャ……ミャ……」
「おはよ、ミミ。学校行ってくるな」
俺はミミの頭を撫でる。
でもまだミミは驚いてる。
みんなを待たせてるからできるだけ早く靴を履いて外に出る。
外は快晴だ。
今ならこの天気は好き。
外にいるみんなと目が合う。
咲羅に実璃、湊亜に言音。
全員驚いてる。
それでも俺は足を止めないでみんなのところに行く。
「……誰?」
最初に訊いてきたのは咲羅だった。
「はぁ? 俺だよ、木神天太」
「……マジで天太……?」
「信じられねぇか? じゃあ言ってやるよ。今年の4月まで嫌われ者で、学校で家の態度見せちまったから急にみんなに話しかけられるようになったやつ。それでお前は白糸咲羅で、本当に仲良くなってくれた」
「……声は天太さんですね……」
「声じゃなくて顔も天太だ」
「確かに顔も木神先輩です……」
それよりみんな疑いすぎだろ。
ま、疑う気持ちもわかるけど。
咲羅が急にバッグからちっちゃくて四角い鏡を出す。
そしてそれを俺に見せた。
そこには、当然だけど俺が映っていた。
だけどいつもの俺じゃない。
ピアスしてて、制服も着崩してる。
あと雰囲気も変えてる。
喋り方とかも。
「これを見てもう1回言ってみて? あなたは木神天太ですか?」
「だからそうだって言ってるだろ?」
「……私の知ってる天太じゃない」
「まぁ、みんなが知らない部分なんていっぱいあるからな。とりあえず学校行こうぜ。また遅刻させたくないし」
俺はそう言って歩き出した。
みんなまだ困惑してるみたいで、チラチラ俺を見てる。
それより、ピアスのあれ痛かったな……。
あの耳開けるやつ。
やるときは本当に勇気が必要だったよ。
あと制服着崩すときも。
まぁ、『制服を着崩してはいけない』なんて校則はない。
……いや、『常識だから校則に入れるまでもない』って可能性もあるな。
ま、いっか。