第162話 あのノート
「天太ー! 一緒にあーそぼっ!」
部屋でノートに色々と書いてたら、いつも通り姉ちゃんがドアを開けてくる。
俺は咄嗟にそのノートの上に他のノートと教科書をのせる。
「なーにしてるの?」
「勉強だよ。邪魔しないで」
「いーよ勉強なんて。大学考えてるの?」
「……大学に行けるほどコミュ力あると思う?」
「うん、ないね。天太にそんなの欠片もない!」
自分から言っておいてこう思うのもあれだけど、なんかひどい言い方だな。
俺だって頑張ればコミュ力……ないわ。
ってか、いまさらだけど大学とコミュ力って関係ある?
「なにして遊ぶ?」
「勝手に遊ぶってことにしないでくれよ……」
「『かごめかごめ』は? 楽しいよ?」
「……後ろにいる人を当てるやつ?」
「そう!」
「あれ二人でやってもなんも楽しくないだろ」
「そうでもないよ? いないはずなのに3人目が――」
「わかった。とりあえず今は大事なことやってるからあとでな」
「むー、せっかく天太と遊べると思ったのに……」
なぜか頬を膨らませて部屋から出ていく姉ちゃん。
そんなに俺と遊べたいの?
俺の中での姉ちゃんのキャラが崩壊してる。
でも、姉ちゃんには悪いけどこの部屋にいないでほしい。
正直、まだあのノートは誰にも見られたくない。
俺は机に目を戻して、そこからさっきまで書いてノートを出す。
……こんなにまとめたの初めてだな、勉強以外で。
ま、これも湊亜のためだ。
……いや、俺のためでもあるか。
そのとき、スマホが震える。
総一朗から電話が来ていた。
「……なんだ?」
『今、時間大丈夫?』
「ああ」
『書けたか? あのノートに』
『あのノート』っていうのは、さっきまで俺が書いてたノートだ。
総一朗にだけ、俺はあのノートのことを教えた。
「今書いてる」
『……いけそうか?』
「なにが?」
『それで湊亜さんを助けられるのかってこと』
「……多分な」
『ただ、お前は覚悟できてるのか? 誰かに見られたら、また嫌われるかもしれないんだぞ?』
「いいよ、あれは事実だし。独りはもう慣れた」
『俺がいるから独りじゃねぇよ』
「……そっか。ありがと」
『どうも。じゃ、最高にかっこつけさせてもらうぜ』
そう言われてから、電話は切れた。
総一朗のあの声、ガチだな。
多分めっちゃ怒ってる。
それを我慢してるときの声だった。
『最高にかっこつけさせてもらう』か。
……いつものぶん、かっこつけろよ?