第150話 なに言われたの?
「……なんでここまで来た?」
帰り道――ってか、俺の家の前。
隣には咲羅がいる。
二人きりだ。
咲羅はいつもはもっと早く別れるはずだ。
なのにここまでついてきた。
「別にこっちに用事があったの」
「そーですか。じゃ、俺は帰るな」
「……ちょっと待って」
うん、止めてくると思った。
「湊亜からなに言われたの?」
「湊亜から?」
「さっき二人きりになったときに言われてたでしょ。あれ、なに?」
……さてと、どうするか。
言うべきか? それとも言わないべきか?
あれは湊亜だけの問題だ。
俺たちが干渉していいものではない。
……でも、『いじめ』とかは無視できないな……。
だって俺がそれをしたんだから。
「……どういうこと?」
「私が気づかないとでも思ってたの? 湊亜、泣いてたじゃん」
「……涙が出てるようには思えなかったけど?」
「涙が出てなくても泣くことはできる。涙が出てなくて泣くことができるのは、自分の心だけにしまってる人だけ。でも天太には話したんでしょ? 知ってるよ」
さっすが咲羅。
お見通し、か。
「言って」
……どうする……?
いや、あれは湊亜の問題だ。
今のところ俺たちが関わっちゃダメだ。
「……そんなこと言われてもわからない」
「……本当に……江島総一朗の言った通りじゃん……」
声のトーンが低くなる咲羅。
そのせいで、家の方に向いていた俺の身体が咲羅に向く。
俺の意思じゃない。
身体が勝手に動いたんだ。
「人の相談は乗るくせに、自分は全部隠す。私のときもそうだったよね。なんで?」
「…………」
「それが『優しさ』とかでも言うの? 自分が我慢して、他人が幸せになるのは『優しさ』? なに言ってるの? 本当に……、天太は……、ひどいよ……」
『ひどい』……。
どういう反応すればいいかわからなかったから、ただ黙って咲羅を見つめてた。
「いつもそうじゃん……。私が――」
「天太!」
突然聞こえてくる母さんの声。
そして俺のすぐ後ろに母さんがいた。
『なんでいる?』って思ったと同時に、母さんが俺のほっべ殴る。
……いや、ビンタか。
ちょっと痛い。
……て、なんで殴られた?
「女の子泣かせるんじゃないよ!」
「はぁ? 泣かせてないし」
「咲羅ちゃん……、だっけ? まったく、かわいそうだね……。全部天太のせいで……」
「え、あの、これは……」
「天太なら女の子泣かせるようなことはしないって思ってたのに……。お母さん悲しいよ」
いやいや、なに悲しんでるの?
え、なに? 咲羅泣いてるの?
これ俺のせい?
「え、あの、違うんです……。私が……」
咲羅が説得しようとしてくれてる。
ありがたい……。
「咲羅ちゃん! 嘘つかなくていいよ! 天太にはお仕置きしとくから! ほら、来なさい!」
ええ……。
母さんは俺の手を握ってどんどん歩いていく。
……咲羅、色々な意味でごめん。
そして母さん、あなたこんなキャラじゃないでしょ。