第132話 実璃とのオセロ
うん、ちゃんと負けた。
とても美しい負け方した。
全部白だ。
「なんか……、勝っちゃったね」
気まずそうに笑う実璃。
これは俺が弱いのかな?
それとも実璃が強いだけ?
それとも、その両方?
なぜか知らないけど、泣きそう。
「実璃……、お前、オセロ得意のか?」
「うん、オセロとか将棋とかは自信あるよ。昔から独りでやってたんだ」
そっか。
そりゃ強い――
――って、『独り』!?
「家にそれくらいしかなくてさ」
「いや、友達とかと――」
「友達……、いなくてさ……」
あ……。
ヤバい、もっと気まずくしちゃった。
「初めての友達は天太さんかな?」
「……ごめん」
「大丈夫だよ。もう気にしてないし。それに、コミュ力ついたの天太さんのおかげだし」
そうなんだ。
それはどうも。
「湊亜さんと総一朗さんも一緒なんだよね。あの二人、まだ時間かかりそうだね」
湊亜と総一朗を見てみる。
確かに、まだオセロしてる。
「よかったら、ここで話さない?」
「大丈夫? 他の客とか」
「大丈夫だよ。どうせ私と勝負しても、みんなイライラするだけだから」
そうか?
確かに実璃、強かったもんな。
こんなふうに負けたら、イライラする人もいるだろうな。
「天太さんのクラスは演劇だよね?」
「ああ、変なやつやる」
「天太さんが演劇、ね……。面白そう」
「……『ギャグのほうで』か?」
「うん」
姉ちゃんと同じこと言ってやがる……。
実璃、わかってるかな?
俺は演技力あるぞ?
「楽しみにしとくね。確か、主人公だよね?」
「残念だけどそうなんだよ」
「天太さん、そういう目立つの苦手そうだもんね。そういえば湊亜さん、大丈夫? 意味深なと言ってたけど」
「なんか大丈夫っぽい。今は楽しんでるみたいだし」
「そっか、よかった」
もう1回湊亜を見てみる。
笑ってる。
うん、大丈夫そうだ。
「――終わったみたいだね」
「え?」
「湊亜さんと総一朗さん、勝負ついたみたいだね」
確かに、なんか二人とも終わってるっぽい。
「じゃ、湊亜さんも待つことになっちゃうし、そろそろ時間だね」
「そうだな。ありがとう。楽しかった」
「うん。私も天太さんの演劇で楽しませてもらうとするよ。バイバイ」
実璃に手を振ってから、教室から出る。
……やっぱ口調変わってる実璃も面白いな。