第13話 咲羅に驚かれた
「じゃ、行ってくる」
姉ちゃんにそう言ってから玄関のドアを開ける。
今日は結構曇ってる。
そして、家の前に咲羅がいた。
「おはよ――って、ええ!?」
咲羅は俺の腕を見た瞬間、めっちゃ驚く。
昨日の姉ちゃんの反応と同じだ……。
それと、咲羅が『俺が怪我をした』ってわかる理由は、俺がワイシャツ越しに包帯巻いてるから。
なんかこれがいいらしい。
『こうすれば早く治る』ってネットに書いてあった。
姉ちゃんはめっちゃ疑ってたけど。
嘘だとしても、こんなしょうもない嘘つかないだろ。
だから本当のことだと思う。
「どうしたの!?」
「あ、これか? 階段から落ちた」
「絶対違うよね!?」
……なんでわかるの……?
『階段から落ちた』って言い訳はダメだな……。
「……もしかして、昨日呼び出されたとき……?」
「あー、いやー、違うなー!」
俺は表情を変えないで言う。
やっぱり俺の完璧な演技力で――
「やっぱり……あいつらか……!」
……あれ?
バレてる……?
なんでだ!?
もしかして、俺の演技力を見破ったのか!?
咲羅……ただの女子高生じゃない……!
「ねぇ、誰にやられた? 名前教えて」
咲羅はめっちゃ怒った表情で俺に言う。
名前か……わかんない……。
あいつらの顔も覚えてねぇし……。
「お願い、教えて!」
いや、だから……、何も覚えてないんだって!
インドア陰キャがクラスメートのことなんか覚えてるわけねぇだろ……。
「……なんで……、隠そうとするの……?」
咲羅の表情が変わる。
悲しんでる表情だ。
別に隠してるわけじゃないけど……。
これは何て言えばいいんだろう……。
素直に『あいつらの顔なんか覚えてない!』とか言うのか……それとも『言いたくない』とか言うのか……。
「怪我、大丈夫そうですね」
俺の後ろからささやき声が聞こえる。
振り向くと、昨日の女子生徒がいた。
家まで送ってくれた人。
「はい、一応大丈夫ですけど……。それと、ありがとうございました」
「……よかった……」
俺が頭を軽く下げて礼を言うと、女子生徒は微笑む。
そんな女子生徒を、咲羅は見ている。
「誰?」
「俺も知らない」
「は!? 知らない人と話してるの!?」
まぁ、そういう反応になるよな。
確かにこの人から名前聞いてないな……。
聞くほどでもないと思うけど。
「えっと……、木神……天太さん……、ですよね?」
女子生徒は小声で言う。
意識してなかったら聞き逃してしまいそうなくらいめっちゃ小さい声だった。
ってか、なんで俺の名前知ってるんだ……?
「ねぇ、なんで天太の名前知ってるの?」
咲羅が俺と女子生徒の間に入って、女子生徒に訊く。
「だって……、有名じゃないですか……、天太さん……」
有名なんだ……、俺……。
悪い方で有名なのかな……?
いつもキモい声出して、キモい口調で、いつもからかわれてる……。
今は違うけど。
「私は実璃です……。よかったら天太さんと仲良くなりたいなって……」
あ、俺と仲良くなりたいんだ。
珍しい人もいるもんだ。
※服越しに包帯を巻くことに効果があるかは不明です。