第125話 演劇の練習
「なんかこういうのやるらしいよ」
湊亜がスカートのポケットから紙を出す。
なんか色々と書いてある。
「『夜に学校に忍び込んだ孤独のインドア陰キャが幽霊と色々会う』ってあらすじだって」
『インドア陰キャ』って……。
俺じゃん。
「多分、主人公は天太くんになるね」
「ええ……、主人公……? 目立つじゃん」
「天太くんといえば主人公でしょ。……あ、でも嫌だったらみんなにそう言いな? みんな天太くんのこと好きだから、ちゃんと聞いてくれると思うよ?」
「考えとく」
「先に天太くんの演技力見たいな。じゃあ……、泣いてる演技して。号泣でもすすり泣きでもいいから」
泣いてる演技、か……。
とりあえずやってみるか。
「う、うわー、えんえんー!」
「…………」
口をポカーンって開けてる湊亜。
この反応は……、どういう意味なのかな……?
「……あ、天太くん? あの、こう言っちゃダメだと思うけど……、真面目にやった?」
「あ、ああ」
「……うーん……。なんか、得意なやつある? ほら、笑ってるやつとかさ」
「基本的になんでも得意ぞ?」
「あー、うん……。えー……、ちょっと待って、考える」
考える?
なにを?
まぁ、演劇部の湊亜に任せるか。
「……多分緊張とかしちゃってるのかな? 『演技しなきゃ』って思っちゃってる?」
「え? まあ……」
「そう……、か……。そう……、だよね……」
? 湊亜?
なんかおかしいよ?
目から水――って、これ涙じゃん!
なんで!?
俺なんかした!?
なんもしてないよ!?
「湊亜!? どうした!?」
「いや……、ちょっと……!」
マジでヤバいじゃん!
どうしよう!
「大丈夫か!? あ、えっと、ハンカチ!」
「――それだよ」
いつもの声で湊亜が言う。
涙拭って笑ってる。
「なんか騙してごめんね。これで天太くんについてわかったよ。今天太くん『演技しなきゃ』なんて思わなかったでしょ?」
「え、だって……、マジで泣いてるのかと思ったから……」
「うん、ごめんね。全部演技」
え、演技なの?
演技で涙流してたの?
湊亜すごすぎだろ。
「なにも考えないでやってみな? そうしたら多分上手くできるよ?」
「そっか……。ありがとう……」
「じゃあやってみよっか。天太くんのお友達――江島くんを借りよっか。私を江島くんだと思って話してみて」
総一朗か。
よし、湊亜を総一朗だと思えばいいんだな?
何も考えないで……。
「……天太、おはよ」
湊亜が低い声で喋る。
めっちゃかっこいい声。
イケボだ……。
こんなの総一朗じゃない……。
でもやらなきゃ……。
「ああ、おはよ」
「昨日の夕飯なんだった?」
「冷蔵庫」
「え? あ、ごめん」
もとの声に戻る湊亜。
どうしたんだろう?
「確かに、なにも考えてないみたいだったね。どんな会話したか覚えてる?」
「うーん……、ごめん、なんも考えないで言ってたから覚えてない」
「私さ、『昨日の夕飯なんだった?』って訊いたの。そしたら天太くん、『冷蔵庫』って……」
え、冷蔵庫?
俺冷蔵庫食べたの?
「ま、まぁ! さっきより全然よくなってる! この調子だよ!」
……そうだな。
なんか上手くいってるみたいだし、このまま頑張るか。