第124話 父さん、帰る
「じゃあな、遥海……!」
涙流しながら玄関で言う父さん。
今日、父さんが帰る。
……『帰る』って表現合ってんのかな?
ま、いいや。
それより、なんで姉ちゃんの名前は言ってくれるのに俺の名前は言ってくれないんだろう……。
「うん、じゃあね」
なんかそっけない姉ちゃん。
「じゃあ、帰るからな?」
「うん」
「…………」
「…………」
「なんで引き止めてくれないんだよぉぉ!」
いや、引きとめちゃダメでしょ。
引きとめてほしいのかな?
「あー、もういいや。お父さん怒っちゃうから。あー、プンプン」
マジでどうした?
今日の父さんおかしいよ?
酔ってる?
ってか、俺もそろそろ学校だから行かなきゃいけないんだよな……。
「じゃ、また帰ってくるから!」
家から飛び出る父さん。
……なんだろ、この複雑な気持ち。
「じゃ、俺も学校行ってくる」
「天太くん、ちょっといい?」
昼休みになった瞬間に湊亜が来る。
「ああ、どした?」
「委員長さんに言われたんだ、『天太くんに演技力教えろ』って」
え? なんで?
その必要ある?
俺がみんなに教える立場じゃないの?
ま、湊亜に教わるならいっか。
「お昼休み、講堂借りれたからそこで練習できる?」
「ああ、わかった。じゃあそこで二人で弁当食おうぜ」
「え?」
「だってー、なんかみんなに俺の演技の練習見られたくないし? それに、今までちゃんと湊亜と話したことなかっただろ? だからさ」
うん、そうだね、みんなに演技の練習見られたくない。
『本番までのお楽しみ』ってやつ。
「……ありがと、さすが天太くん。だからモテモテなんだね」
……? ほへ?
あれ? なんか話題ずれてる?
「じゃ、行こうぜ」
「うん!」
うわー……、講堂意外と広い。
いつも全生徒が集まってるから狭く感じてたけど、二人だけだと結構広い。
ステージの上で湊亜と弁当食べてる。
初めて来たな……、講堂のステージ。
「……そっか、湊亜って演劇部か。だから頼まれたのか?」
「多分そう」
「演劇部っていつもどこで活動してるんだ?」
「基本的にここだよ?」
「そうなんだ」
改めて講堂を見渡す。
やっぱ広いな……。
「……ありがとね、色々と」
急に湊亜が喋る。
……本当にどうした?
「私さ、変なこと考えちゃう癖あるんだよね。自分でも『考えすぎだ』ってわかってるんだけどね。私が天太くんと初めて会った日の放課後のこと覚えてる?」
俺と湊亜が初めて会った日の放課後……?
学校案内してた気がする。
「『直感でわかる』って言ってたやつか?」
「うん、それもよく考えたら変だよね」
湊亜……。
……なんか自虐的になってない?
「……よし! じゃあやりますか!」
湊亜が立ち上がる。
今からやる感じかな?
……でもさ、まだ湊亜弁当食べ終わってないよ?
「天太くん、やるよ!」
「湊亜……、弁当――」
「お弁当の気持ちはね、『人間に食べられたくない』って気持ちなの! だから悲しみを込めて、思いっきり叫ぶ感じで!」
……最近湊亜疲れてるのかな?
今回の名言……『お弁当の気持ちはね、『人間に食べられたくない』って気持ちなの!』