第107話 例のこと言ってみた
「天太くん」
後ろから声がする。
名取の声だ。
振り向きたくないけど、振り向く。
そこには予想通り名取がいた。
今俺は下校中。
いつもは咲羅たちと帰ってるけど、今日は一人で帰ってた。
理由は名取が来ることがわかってたから。
名取も一人みたいだ。
それより、俺の呼び方……。
『天太くん』って……。
「なんか用か?」
「いえ、付き合ってるなら一緒に帰るのが当然かと」
名取が俺に近づく。
……付き合ったら一緒に帰るのって当然なの?
初めて知ったわ。
それより、早くあのこと言わなきゃ……。
よし、できるだけなんとなく言うんだ。
何気なく、そして演技力を……!
「あ、な、名取ー! お前はー、俺とー、付き合わなかったらー、どうするー?」
よし、完璧な演技……。
「……なにか隠してますか?」
こいつ……!
俺の演技を……!
やっぱり只者じゃねぇな……!
柚斗が『気をつけろ』って言う理由もわかる。
でもここで『うん、なんか隠してるよ』なんて言わないほうがいい。
今度こそ俺の演技で……。
「い、いやー! なんも隠してないよー?」
「……もうバレてるんだからやめたら?」
やっぱりこいつ……!
クソ……、俺の演技が……!
個人的には演劇部よりも演技得意と思うんだけどな……。
それより名取、今言葉遣い変わった……?
「で、何隠してるの?」
やっぱり変わってやがる。
なんで急に変えるんだ……?
今はそんなことどうでもいっか。
それより、演技でごまかすより、単刀直入に言ったほうがいいな。
俺は深呼吸をしてから、落ち着いて言った。
「名取、お前は俺に『付き合わなかったら例のことを広める』って言った。それは『脅迫』とて受け取っていいんだな?」
「…………」
黙る名取。
よし、成功できそう。
ありがとな、実璃。
助けられてばっかりだけど。
「それで俺は警察とかに――」
「……ハハ……アハハハ!」
急に爆笑する名取。
……マジで大丈夫かな?
名取の心配なんて今までしたことなかったけど、今はマジで心配してる。
名取がおかしくなった……。
「急に真顔になってなにを言うかと思えば、そんなことか! 私を警察に? いいよ! でも、私は警察に捕まるまでに時間がある。その間に広めることなんて簡単だよ!」
……捨て身戦法?
なるほどね、覚悟はすごいな。
こりゃ大変そうだ……。