第106話 色々考えた
今俺は屋上で一人で考えてる。
マジでどうしよう……。
普通に名取と付き合いたくない。
でも付き合わなかったらあのことを広められる。
どっちも地獄だ。
……ま、ああいうことをした俺が一番悪いんだけど。
それより迷ってる時間はない。
「今、一人ですか?」
後ろから実璃の声がする。
振り向くと、オレンジジュースのペットボトルを2本持った実璃がいた。
「ああ……」
「昨日、色々考えたんですけど……」
実璃は俺の隣に座る。
そしてペットボトルを1本俺に差し出してきた。
「あ、ありがとう……」
「これしか売ってなくて……」
「いや、嬉しい」
俺は早速それを飲む。
……うん、ちゃんとオレンジジュースの味がする。
「まず一つ目が、『逆に名取を脅す』ことです」
「名取を脅す……?」
「はい、向こうは『もし私と付き合わなかったら昔のことをみんなに広める』と言っています。それって犯罪ですよね?」
「うーん……、『脅迫罪』ってやつか? あんまり法とか詳しくないからよくわかんないけど」
「さすがに名取も犯罪を犯して警察沙汰にはさせたくないと思うんですよ」
まぁ、そうだな。
最悪名取が色々とされちまうからな。
「……で、二つ目はなんだ?」
「二つ目は……。……すみません、なんでもありません」
……はい?
「その感じ、なんか考えてきてくれたんだろ? せっかくなら聞きたいんだけど……」
「いえ、本当に酷いことなので……」
「酷いこと?」
「はい、最低な発想です」
そこまで言う?
実璃がそう言うってことは結構ヤバいやつみたいだな。
でも聞きたいな……。
「実璃、教えてくれないか?」
「でも……」
「別に悪く言ったりしない。むしろ感謝してるから」
「……じゃあ言いますね」
実璃が深呼吸をする。
そこまで覚悟する必要あるんだ……。
「……『いじめをなかったことにする』んです……」
「…………」
「……本当にクズですよね。そんなこと――」
「……いや、助かった。ありがとう」
正直、実璃の言う通り、最低な発想だと思う。
いじめをなかったことにしたら、いじめてた側のやつの心は綺麗になると思う。
でもいじめられてた側はなんも変わらない、むしろ傷が酷くなる。
……やっぱり一つ目だな。
「一つ目のやつでやってみようと思う。一応名取も警察は避けたいと思うから」
「ですよね……。わかりました。なにか協力できることがあればなんでもしますよ?」
「いや、大丈夫だ。すでにかなり協力してもらってるからな。あとは俺がやる」
「わかりました。でもなにかあったらすぐ言ってくださいね?」
「ああ、ありがとな」
俺が言うと、実璃は笑う。
でも作り笑いにしか見えなかった。
……とりあえず、名取を脅してみるか。
……でもそれじゃこっちも『脅迫罪』とかいうやつにならないかな?
ま、いっか。
あとのことは考えなくて。