第102話 母さんの弁当
今、8つ目の弁当食い終わった。
その8つ目が咲羅のやつ。
みんなよく弁当つくれるな……。
さてと、次が例の弁当だ。
母さんがつくってくれた弁当。
俺は袋から弁当箱を取り出す。
……なんか紙が入ってる。
『あーくんへ、最近一緒におねんねできなくてごめんね。あーくん、なんでもつらいことを溜め込んじゃうから、ストレス溜まりすぎたらすぐ言うんだよ? 私はいつでもあーくんの味方だからね』
……は? なにこれ?
「木神くん、なにそれ?」
女子生徒が紙をのぞく。
「……! これ木神くんの彼女から?」
「いや、ちが――」
「え、誰から?」
一緒に弁当食った女子生徒たちがみんな紙をのぞく。
なんかヤバいことになりそう……。
「絶対彼女じゃん! 『あーくん』って書いてあるよ!」
いや、母さんです。
「同年代? つまり……、16歳?」
いや、47歳です。
「どういう系の人? 元気系? クール系?」
おばさん系です。
「これ、母さん……」
「え、お母さん?」
「ああ……」
「……仲、いいんだね……」
なんか引かれてない?
これって俺のせい?
それより、弁当の中身はなにかな?
さすがに弁当の中身は普通だろ。
俺は弁当を開ける。
あー、焼きそばか……。
しかも結構大盛り。
とりあえず食べる。
うん、美味い。
なんか鉄の味がする。
鉄のフライパンでやってくれたのかな?
すごい、初めて食べた。
鉄のフライパンでつくると、なんか錆びた鉄みたいな味するんだ。
俺はこういう味苦手だから、あんまり好きじゃないかな。
……あと、なんかカビの味がするのは気のせいだよな。
「美味しそうですね」
うーん……、美味しいか……?
……? この声って……。
俺は振り向く。
すると、すぐ近くに名取がいた。
「名取……」
「久しぶりですね、木神天太さん」
「会いたくなかったけどな」
「そうですか?」
「ちょっと真央ちゃん、なんか木神くん嫌がってるじゃん」
女子生徒が俺と名取の間に入る。
……今だけ感謝してる。
「あら? そうですか。それより皆さん、木神天太さんのことが好きみたいですね」
「そうだけど……」
……なんかヤバい気がする。
「木神天太さん、昔いじめしてたんですよ」
「!」
俺は立ち上がる。
予想してなかったことを言われた。
……そのことをえぐり出してくるか……。
「は、はぁ? そんなわけないじゃん。木神くんは――」
「萩浦燕沙、いじめられてた人の名前です」
……よく調べたな、そんなこと。
合ってる、確かにその名前だ。
「……き、木神くん――」
「お前らはちょっとどっか行ってろ。二人で話したい」
俺は名取の顔を見たまま女子生徒たちに言う。
女子生徒たちはしばらく動きが止まってたけど、やっと屋上から出ていってくれた。
そして、俺は名取と二人きりになった。