第1話 嫌われ者、木神天太
「おい、ブタ! ゴミ捨てやっとけよ!」
数人の男子生徒が俺にそう言い、教室から出ていく。
教室の中は俺一人になった。
俺は木神天太、高校2年。
髪はボサボサ、マスクとサングラスで顔を隠し、キモい声、あだ名は『ブタ』で、みんなの嫌われ者、それが俺。
しかも口調もキモくて『ボクはブタだブー』とか言ってる。
もちろん、それは学校の話。
家ではちゃんとした声で、普通の男子高校生。
そして今、あいつらは俺に掃除当番を任せやがった。
「……はぁ……疲れる」
近くに誰もいないことを確認してから、俺は地声を出す。
この声が一番落ち着くな……。
「ただいま」
俺は家のドアを開け、リビングに行く。
姉ちゃんがミミを撫でていた。
『ミミ』ってのはネコ。
飼ってるネコ。
もちろん、ここからは地声だ。
「ああ、おかえり。今日は帰り、遅かったね」
「掃除当番。それより母さんは?」
「買い物。それと、本当に掃除当番?」
姉ちゃんが言い終わると同時に、ミミがあくびをする。
かわいい。
「女の子とデートしてたんじゃないの?」
「デートなんて一生できねぇよ。俺のことが好きなやつがいるわけじゃねぇし」
「えー……。でもさ、天太ってかっこいいじゃん。私が天太のクラスメートだったら、絶対天太のこと好きになってたなー」
姉ちゃんはミミを撫でるのをやめて、テレビをつける。
俺はため息をついてからマスクとサングラスを外した。
次の日。
いつも通りの格好をして学校に来た。
さてと、今日もやるか……あのキモい声……。
そう思って自分の席に座る。
……? あれ……?
待って……! 財布がない……!
ポケットに入れてたのに!
俺はマジで焦って、リュックの中、机の中とかを確認する。
興奮して身体が熱くなってきた……。
暑かったから、マスクとサングラスを外す。
どこ探してもない……。
あの中には俺の大事な金と生徒証が……。
生徒証はちゃんとマスクとサングラス外してるから絶対に見られたくない。
仕方ない、校門まで戻ってみるか。
俺が廊下に出ようとすると、数人の女子生徒が教室に入ってくる。
いつも俺をからかうやつらだ。
「あ、ブタじゃん――」
「なぁ! お前ら!」
女子生徒が完全に俺の顔を見る前に、俺は女子生徒に話しかける。
女子生徒たちはきょとんとしている。
「財布! 紺色の財布見なかったか!?」
「え……?」
「見てないみたいだな! サンキュ!」
俺は女子生徒を後にして走った。
結局、俺の財布は校門の横にあった。
中も特に盗られてなさそうだ。
意外とすごくない?
こんなに放置されてたのに誰も盗まないって。
いいことだ。
それに、生徒証も無事だ。
よし、教室まで戻るか。
「……ねぇ」
教室に戻って、本を読んでいたら誰かに話しかけられる。
さっきの女子生徒たちが俺の机の周りを囲っていた。
なんだよ……、またからかいに来たのか……?
今はボーッとしてたいんだよ。
「マスクとサングラス、外して」
……え?
「さっき外してたじゃん。もう1回、顔見せて」
第1話、最後まで読んでくださりありがとうございます!
字数が約1000字なのは作者の都合によるものです(一応学生なんですよ……。勉強しないと色々と大変になことになってしまうので……)。
これからも基本、1話約1000字が続くので、ご了承ください。